白い贈り物


一人で買出しに出かけたぼくは、大通りの一角に人だかりが出来ているのを見つけた。
「なんだろう…?」
近づいてみると、おじさんの大声が聞こえてきた。
「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!
古今東西の珍しいお菓子が沢山ですよ!!」
どうやらお菓子の出店らしい。
お菓子か…今は別に必要ないし、無駄遣いすることもないな。
ランが一緒だったらせがまれただろうけど…そう思いながら何気なく
通り過ぎようとして、あることを思い出して立ち止まる。
―――そういえば。
一ヶ月前、エレナがチョコレートをくれた。いつも早起きの彼女だけど、その日は
更に早く起きて、わざわざ手作りしてくれたんだ。すごく、嬉しかった。
まぁ、レオンやランにもあげてたからぼくだけのために、ってわけじゃないけど―――
チョコレート自体は特に好きでも嫌いでもないけど、エレナが作ってくれたそれは
本当に美味しいと思った。お礼は言ったけど…やっぱりぼくからも何かあげたい。
ちょうどいいや、何かいいものないかな?
ぼくは人だかりをかきわけて、売られているお菓子の品定めを始めた。

エレナなら、何をあげても喜んでくれると思う。だけどそれだけに、
何を選べば良いのか迷ってしまう。
いろんな色や形のチョコレート、キャンディー、クッキー…それらを順々に
見回しながらうなっていたぼくの目に、小さな白いお菓子が飛び込んできた。
―――これ、なんだろう?
手にとって、透明な包装紙ごしにそっと触ってみる。ふわふわとやわらかい感触。
ぱっと見飴かとも思ったけど、そうじゃないみたいだ。
「お兄さん!そりゃね、マシュマロってんですよ!」
店のおじさんが手もみをしながら教えてくれた。
「…ましゅ…まろ?」
聞いたことがあるような気はするけど、食べたことはない。
おじさんはぼくの様子から、それを察したみたいだ。
「美味しいですよ!なんなら試食してみますか?」
「え?いいんですか?」
「もちろんですとも、はい!どうぞ」
マシュマロの入った袋のリボンをほどき、中から一つ取り出してぼくの口に
放り込んでくれた。
なんだか不思議な食感。
ふんわりして、甘くて…
「いかがです!?美味しいでしょう!?」
おじさんが期待に目を輝かせながら、ぼくの方へ身を乗り出してくる。ぼくは…
「は、はい…それじゃ、これ、ください」
「まいどあり!!」


「おかえりなさい、アスルさん!」
宿屋に戻ると、エレナが笑顔で駆け寄ってきた。
「お疲れ様です」
その後ろで、本を読んでいたレオンが顔を上げて笑いかけてくれる。
「アスル、食料買ってきた〜!?」
二言目には食べ物のことばかりのランは、ぼくの荷物を早速あさりはじめた。
この子に見つかったら食い尽くされてしまいかねない、エレナのために買ってきた
マシュマロを背中に隠しながら、ぼくはランの目を盗んで、エレナに外に出ようと
目で合図する。エレナは首をかしげていたが、素直にぼくについてきてくれた。

「エレナ、これ…」
宿の裏の、人目につかない場所までエレナをつれてきて、マシュマロを手渡した。
「え…?これは…」
「あの、この間チョコもらったから…それのお礼のつもり…なんだけど」
そう、別に他意はない。もらったからお礼するだけであって…
なのに、どうしてこんなに照れるんだろう…
「あ、ありがとうございます!嬉しいです…!」
エレナは顔を輝かせて喜んでくれた。予想通りのことだったけどやっぱり嬉しくて、
ぼくも自然に表情が緩んでしまう。
「これ、なんですか?柔らかいんですね…」
ぼくがしたのと同じようにエレナも包装紙越しに触れて、初めて見るお菓子に首を傾げる。
「マシュマロって言うんだって。ぼくも今日初めて知ったんだけど…」
「あの、食べてみても良いですか?」
「うん、もちろん!」
ぼくが頷くとエレナの白い指先がリボンを解き、白いマシュマロを1つ、
そっと取り出した。そのまま口に運んだエレナは…
「……」
「…どう、かな…?」
エレナが何も言わないので少し不安になって、恐る恐る聞いてみる。
「…美味しい…ふわふわして、甘くて…」
エレナはその食感まで味わうようにしばらく目を閉じていたけど、
やがて目を開けて呟いた。そして、
「本当にありがとうございます、アスルさん!」

エレナの笑顔を見て。

ぼくは気づいたんだ。
散々悩んでいたのに、あっけなくマシュマロに決めてしまったのは
おじさんの勢いに押されたからってだけじゃない。

真っ白な心、包み込んでくれるような優しさ、柔らかい笑顔。
エレナとマシュマロを、無意識に重ねていたんだ―――

でもそんなこと、エレナに言えるはずなくて。
「よ、良かった!気に入ってもらえたんだね!?」
ぼくは慌ててそう言って、どうにか照れくささををごまかした。
エレナから返ってきた言葉は。
「もちろんです、アスルさんが下さったんですもの♪」
「え……」
ぼくの思考が停止する。心臓が大きな音を立てた。
「あっ…その…」
エレナの顔は、見る間に赤く染まってゆく。
多分、ぼくの顔も同じような状態になってるんだろう。


今年の勇×僧ホワイトデーはSSにしてみました!
実は、去年書きかけてまとまらなくて挫折したものに手を加えて完成させました。
なんとか日の目を見ることが出来てよかったです。
相変わらずのアスルとエレナでした(笑)


(05/3/14)

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