クリスが日本の学校に行かない理由
(クリス_NKさん・作)



「社ー、起きてる? ご飯できたよ。」
「ん、ああ、もうそんな時間か……ふあぁぁ〜あ……。」

相変わらず早起きのクリスに目を覚まさせられて、俺は食卓に赴いた。朝からそれなりに豪華な朝食だ。
俺が一人暮らしだったら絶対にこうはいかない。よくこいつは朝からこんなもの作れるよなと毎度ながら感心させられる。
だが、ふと思った。それはこいつが朝から晩までずっと家にいるからだ。

「なあ、クリス。」
「何?」

俺は唐突に聞いてみた。

「お前さ、学校に行くとか考えたことねぇの?」

いつも思っていることを聞いてみたが、クリスは顔色人使えずにあっさりと言い放ってくれた。

「ない。」
「……なんでだよ?」
「……気持ち悪い。オロチが学校に行ったって意味ないでしょう。朝からそんな胸糞悪い話をするんだったらさ、食事抜きにするよ。」
「い、いや、悪かった。その話はやめることにする。」

問い詰めたら急に声色が変わり、目つきも背筋を凍らせるような冷たいものに変わった。もともとこいつはこうだ。
自分に振られた話が気持ち悪いものだと、とたんに殺意を隠しもしない恐ろしいやつになる。それがたとえ身内の俺達だとしてもだ。
クリスが時々わからなくなるのは、そういうところがあるからだ。自分の思う通りのことをするし、嘘偽りがない。
それ自体は別にかまわないんだが、ごまかしたりを極端に嫌う性格なのだろう、そういう状況んなると不機嫌な様子になり、
相手を睨んだりすることさえいとわない。

「おはよー」

シェルミーだ。俺の家の合鍵を持っているから、必要に応じて勝手に入ってくる。

「朝ごはん食べてたんだ〜。」
「……社が変な話したからまずくなったけどさ。」
「なになに? 社がクリスの寝込み襲ったとかそういう話?」
「バカ! 俺がそんなことするわけねぇだろ!!」
「それに近い。」
「あら〜、ついに社もそっちに目覚めてねぇ……」
「だから違うって言ってんだろ!!クリスが学校に行かないのなんでって聞いただけだから!!」
「あ〜、そういうことね?そういえばそうだけど、何か理由があるの?」
「……くだらない。それだけ。」
「なにがくだらないの?」
「人間たちがたくさん群がっている、その中に長時間ずっと閉じ込められる。それだけで十分息苦しいじゃないか。」
「まあ、そりゃそうだな。」
「それに、みんなで同じことを延々と勉強するでしょ。」
「それのどこが変なんだよ?」
「笑っちゃうよね。人それぞれ興味がある事柄は違うのに、全員共通で授業を受けるってことが。例えば英語の授業。
僕はそれ相応に英語喋れるけど、それでもThis is a pen.レベルからだよ。……ていうか、日本に来たばかりのときに
学校に行ったけど、アルファベット26文字から教えられたときにはさすがに閉口したし。」
「だはは!そりゃそうだな!アルファベットばっかり使ってる人間に今更そんなの教える意味ねぇわな!」

こればっかりはクリスの言うとおりだ。確かに普段からその文字を使って生活してきたやつが今更字の書き方から
勉強とか、バカバカしくて仕方がない。もし仮に俺が海外の学校に行って、外国語の授業ですってんで日本語必修、
まずひらがな・カタカナの書き方からですよ〜だったら確かに萎える。

「あと、みんなで同じものを、同じように学ぶことを強いられるとか……スウェーデンではそんなことはなかった。
例えば、ある問題について興味があるグループが集まって勉強したり、各々が自習っていうか、自分の興味が
あることを勉強して、それを先生が解説するという感じの授業だからさあ……。」
「ん? なんかそれ変だよなぁ……。それじゃ、そいつが興味あることばっかり知ってしまって……」
「それでいいんだよ。興味ない分野を延々と語られたって飽きるよ。」
「フランスとも随分違うのねぇ……。」

国によって教育の内容が違うってことぐらい、俺だって知っている。そういうことを考えると、クリスが他のやつと
交流を持とうとしないとか、広い意味での“協調性がない”みたいなところってのは、スウェーデン的な教育法の
賜物でもある、といえなくもない。ただ、それと同時にこいつはあらゆるものから“自由”なのかもしれない。
自分の思うことをきちんと自分なりに考える。そして、それでいて誰にも屈しない。

「なあ、そういう考え方っつーのも、教育でやるってのか?」
「当たり前じゃないか。まあ、残念なことに、人間はそういうことができる人が極端に少ないけどね……特に
この国にいる人間たちは。」
「……手厳しいな……。」
「人から聞いたことをちゃんと確認したり自分で考えたりせず、ただ鵜呑みにして、それを真なることだと
思い続けてるなんて、僕からしたら滑稽以外の何物でもない。パスカルって哲学者が『人は考える葦である』って
言ってたけど、そのことを考えたら、風で飛ばされるただの葦だね、あの人間たちは。」
「人ですらない、か……悲しいことだな。」
「だからこそ、ああいう人間のようなものは一刻も早く滅ぼしてやらないとね。
そうでないと地球にどんな害悪を与えるかわからないから。」
「ま、その辺はオロチを復活させる一環として、だな。」

どうも、こいつが学校に行かないという理由は、「自分で物を考えさせない」という日本の学校のシステムにも
理由があるらしい。あとは、人間の中に「自分で考えないやつ」がいるってことも許せないらしい。あいつにとって、
生きる意義があるのは自分で考えることができるやつ、それ以外は生きるだけ無駄だと思っているふしがあるようだ。

あいつ自身は一度オロチの触媒になっていたわけで、その時のことはあまりはっきりとは覚えていない様子もある。
だが、だからこそ自分とは何か・自分が生きるということは何かということを本気で考えたがるんだろう。
オロチ一族として絶対的にオロチに従属、オロチのために命まで捧げるとかだけではないんだろうな。自分は生きて生きて、
その上で自分のなすべきことを見つけて成し遂げる(おそらくその目標の一つが人類滅亡なんだろうが)……
オロチ一族の中でも、こいつはもしかしたら一番「生」に固執しているのかもしれない。

シェルミーはファッションデザイナーとして新しい「人生」を歩んでいることをそれなりに楽しんでいるようだし、俺は俺で
目標は定まっておらずぶらりとした感じだ。せいぜい固っ苦しくオロチにしがみついているやつはゲーニッツくらいなもの
だろうな。もっとも、ゲーニッツは自分なりに生きるということはオロチのために、って考えた末での行動なんだろうが……。

まあ、あまりブラブラしてるのをクリスにさらけ出していると、俺まで滅亡させられるからな……
ちったぁ自分ってなんだを改めて考え直すことにするか。



クリスが学校に行かない理由は公式回答では「人間との関わりをあまり持ちたくないから」と
なっていますが、クリス_NKさんの解釈で教育という結構大きなテーマにも切り込んでいく、
なかなか他では読めない内容になっています!僕では全く思いつかない話ですが、こういった
切り口もアリだと思います!!色々考えさせられますね!!
面白かったです!!素敵な小説をクリス誕生日にありがとうございました!【コメント:小太郎】

(17/5/3)

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