遅れてきたケーキ


「ええっ!?できてないって…ど、どういうことですか!?」
アスルが動揺しつつ聞き返すと、店主夫婦の妻の方が頭をペコペコと下げながら繰り返した。
「申し訳ありません、申し訳ありません…!!ご注文は確かにいただいていたのですが、
わたくしどもの手違いで抜け落ちておりまして…!」
「そんな…!」
アスルの口からは思わず抗議の言葉が飛び出しそうになったが、
恐縮した様子の婦人を見るとそれを飲み込まざるを得なかった。

ここは町外れにある小さな菓子屋。少し前に近くを通りかかったアスルは、店頭に並んだ
色とりどりのフルーツや食用の花をあしらったケーキに目を奪われた。
ショーウィンドウの張り紙には「誕生日ケーキ承ります」の文字。
それを見て、アスルの頭には妙案が浮かんだ。
約1週間後に誕生日を迎える愛する妻・エレナの誕生日を祝うケーキを作ってもらおう。
浮き立つ心で店に入り、その場で注文をすませた。
様々な候補の中から選んだのは、イチゴがたっぷり乗ったタルト。果物が好きなエレナは
きっと喜んでくれるだろうと思ったし、瑞々しい紅はエレナの瞳を連想させた。

そして今日、エレナの誕生日当日。
朝起きてアスルはまずエレナに、祝福の言葉と共にフリルのついた花柄のワンピースを手渡した。
エレナは瞳を潤ませながら喜び、早速身につけてくれた。想像以上にとても似合っていて、
アスルは内心自分の選択を自分で賞賛し、あまりに愛らしい妻に惚れ直さずにはいられなかった。
これでケーキを渡せば、さらに喜んだ顔が見られる…そう思い、アスルは意気揚々と約束の時間に
ケーキを受け取りに行った。だが…多くの注文を受けていたのもあってかアスルの注文は店のリストから
抜け落ちており、頼んでいたケーキは受取時間に間に合わないどころか作られてすらいなかったのだ。
「大変申し訳ありません…今からお作りします!夜にはできますので、ご自宅までお届けいたします」
店主夫婦の夫の方が腰を直角に折って頭を下げてから、真摯な声音で言った。
本来配達はしていないこの店が、届けてくれるというのだ。誠意は確かに伝わってきた。
「…わかりました。よろしくお願いします」
アスルは先に代金を払い、自宅のある場所を伝えると、それ以上は何も言わずに帰路についた。
だがその道中、数え切れないほどのため息が無意識にもれていた。
本当は、ティータイムに合わせて受け取りたかった。
今日は天気もとてもいいし、テラスにテーブルとイスを出してケーキを味わうつもりでいた。
陽光の下ならば、ケーキもエレナのワンピースもよりいっそう輝いただろう。
「夜…か…」
もちろん、家の中で食べても美味しいだろうしエレナは間違いなく喜んでくれるはずだ。
だが、この絶好の日和を無駄にしてしまうのがなんとも口惜しい。
少し肩を落として帰宅したアスルにエレナは首を傾げたが、
詳細を聞くとアスルの手を取って柔らかく微笑んだ。
「ありがとうございます、アスルさん…いろいろ考えてくださって。
でもわたし、夜に食べるのも楽しみです」
「でも…せっかくいい天気なのに」
「それじゃぁ…お散歩に行きませんか?」
「え…」
「夜に美味しいケーキが待ってるんですもの。おなかを空かせておきましょう♪」
「エレナ…うん、そうだね!」
二人は手を繋いで散歩に出かけた。
春の温かい日差しを受け、エレナのサラサラとした空色の髪が、華やかなワンピースが輝いている。
そこかしこに咲いているどんな美しい花も、隣を歩く花にはかなわない…アスルはそんなことを考えてから
(うわ、恥ずかしい!)と一人で赤面していた。

それから数時間後。すっかり日も落ちた頃、エレナの誕生日ケーキは届けられた。
だがそれは、注文したサイズの倍はあろうかという大きなもので、さらに
クッキーやマドレーヌといった大量の焼き菓子もついてきた。
店主夫婦によると、お詫びの気持ちだという。二人は戸惑いながらも礼を言って
それを受け取ったが、夫婦が帰った後、苦笑いの顔を見合わせた。
「どうしよ…こんなに食べきれない…よね?」
「そうですよね、さすがに…あっ、そうだ!」
何かを思いついた様子のエレナが両手を合わせて顔を輝かせた。
「明日、ランやレオンさんのところにも届けに行きませんか?焼き菓子は少しは日持ちするでしょうし、
ケーキもさっき作られたばかりだから明日の午前中ぐらいなら大丈夫だと思いますし」
ランとレオンは、今はそれぞれ新たな場所で暮らしている、かつての旅の仲間たちだ。
「あっ、それいいね!そうしよう!!特にランは大喜びするだろうな」
「ええ…二人に会えるのも楽しみです♪」
エレナの心底嬉しそうな表情に、アスルも嬉しさがこみあげてくる。
― ケーキが時間通りに受け取れなくて、がっかりしたけど…かえって良かったかもな… ―
ぼんやりそんなことを考えていると、
「アスルさん」
エレナが改まったように声をかけてきた。
「素敵なケーキを注文してくれてありがとうございます。とっても嬉しいです!」
その瞳は、ケーキに惜しげもなく敷き詰められたイチゴよりも鮮やかに輝いていた。

 


実際にエレナの誕生日ケーキをお店に依頼してたんですが、
取りに行ったら注文が抜けてたらしく作られてなかったんです;
夜に届けてもらえたけど、わざわざ有休もとってたし、明るいうちに自然光で写真を
撮りたかったので(しかも超天気が良かったんですよ!)
指定の時間に受け取れなかったのが残念で…その悔しさをどうにか消化したくて
思い付いたのが、この出来事を元にして小説を書くことでした(何)
ケーキが届くのを待っている間に書き上げました。
DQ要素は何一つありませんが、結婚後のラブラブなアスルとエレナが書けたので
悔しさは消化されました!(笑)
(ちなみに実際は注文通りのケーキが届き、お詫びのお菓子を1つくれました)
そのケーキの写真はこちらに載せています。作中に登場したワンピースもここで紹介しております。

(23/3/15)
エレナ、誕生日おめでとう!!

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