喪われた手記
(Eさん・作)



旧アリアハンに眠る勇者の手記と思われる書物が発見された。
数百年前の紙は劣化が激しく、少しでも扱いを誤ると崩れ去ってしまう為持ち出す事も
叶わないというので私が呼び出された。
賢者である私は時を遡る魔法を編み出す事にし、今日ついに完成した。
これでこの書物が勇者の物だと証明出来る。
私は魔法で新品同様になった書物を取り上げ満足感に酔いしれた。
後はこれを持ち帰り、依頼主に渡すのみ。
しかし…
私は書物を見た。妙に薄い冊子だ。魔王を倒す旅の手記と言われているがそれにしては違和感があるし、
「装丁が外された痕がある…」
そもそも勇者の手記は写本された物が残っているのだ(だから偽物疑惑が浮上した)。
この書物が本物ならば、もしかしてこれは伝説にある[喪われた手記]ではないだろうか。
私はゴクリ、と唾を呑んだ。
[喪われた手記]は勇者の日常を描いてある為魔王を倒す旅とはあまり関係はないからと写本する前に
外された部分だといわれている。ここには勇者とパーティーメンバーの人柄が描いてあり、アリアハンの
勇者を研究する者には喉から手が出る程に欲しい書物なのだ。
一度だけ…
一度だけ読んでも良いかな?
だって依頼には「読んじゃ駄目」とはなかったんだし。
私一人しかいないのに誰も見てない事を確認し、パラリと書物を捲った。

###############

目標の為に僕は頑張った。
ひたすらモンスターを倒し、メンバーが瀕死ギリギリの状態になっても倒し続けた。
そんなある日、戦士が僕に理由を尋ねてきた。
その結果、戦士は同士になった。僕達は超頑張った。
ひたすらモンスターを倒しまくった。僧侶がザオラルを覚えたら死ぬ事すら惜しまずに戦った。
そんな僕らに武闘家が理由を尋ねてきた。
その結果、武闘家も同士になった。
僕達は超超頑張った。
ひたすらモンスターを倒しまくって回復はアリアハンまで戻る徹底ぶりに、
何度も僧侶が訝しげな顔をしていたのだが彼女には理由を告げなかった。
そんな努力を重ねた結果、僕達はついにやり遂げた。間に合った事に感極まり、3人で男泣きした。

久しぶりに入ったアッサラームの宿屋で四人でいつもより豪華な食卓についた。
何も知らない僧侶は注文違いだわと顔を青くした。そうではないと彼女を椅子に座らせ、僕達は声を揃えた。
「「「誕生日、おめでとう僧侶ちゃん!!」」」
「ほえっ!?」
目を丸くして驚く彼女。
「これは僕達からのプレゼント」
「…!!!」
「ありがとうございます!!」
僧侶は差し出されたプレゼントにその蒼い瞳を潤ませてお礼を言った。
「…開けてみても良いですか?」
「うん」
包装された袋からワクワクしながら中身を取り出した僧侶は何故か俯いたまま固まった。
「………これ、は?」
「きっと似合うと思う」
「着てみてほしい」
「その為に僕達頑張ってお金を貯めたんだよ」
戦士、武闘家、僕の言葉に僧侶は顔を上げた。そして手のひらを僕達に向けて言った。
「………バギクロス」
僕が最後に見たのは目が笑ってない微笑みを浮かべた僧侶の顔だった。
――――――
目覚めた時、危ない水着は燃やされて無くなっていた。
僕達は教会で泣き崩れた。
僕達の夢が灰に…。

###############

「………これあかんやつや…」
御先祖様、苦労なさったんですね…。私は書物を閉じると遠い祖先に手を合わせた。
そして再び魔法を行使し、書物を元の状態にすると依頼をキャンセルして貰うためにルーラを唱えた。


勇僧アンソロジー用に書いていたけど没にしてしまったというお話を読ませて頂き、
埋もれさせてしまうにはもったいなかったので、是非にとお願いして掲載させて頂きました!!
なにやら壮大かつシリアス風のはじまりでワクワク感をかりたてられましたが、まさか男性陣一同で
僧侶ちゃんに危ない水着を着せよう計画だったとは…(笑)危ない水着は高級品ですからねぇ。
僧侶ちゃんの静かな怒りによるバギクロス、灰になった危ない水着…
男性陣には申し訳ないですが笑いました!! Eさん、楽しいお話ありがとうございました♪

(16/3/12)

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