生きる者達と死せる者達へ祝福を 
第七章 テラの激流
 (糸蒟蒻さん・作)

 

 雨が降っていた。
ドルファンに所属する傭兵の1人、アラン・ヴェルジェはドルファン暦27年11月30日この日、
何故か昔のことを思いふけっていた……

 

「アラン。どうしても行くのか?」
「ああ。母さんも死んだし、考えたいことが多すぎる。」
 両親の墓の前で友人が後ろに居た。 
目の前の墓の下にいる父は商いの失敗により、金を失い、心労で倒れ、1ヶ月前にそのまま……。
父の手伝いをしていた母も追うように数日後、自殺をしてしまった。

両親の愛情に飢えていなかったといえば、嘘になる。
だが、自分を養うために仕方のないことだった……。
アランは自分に言い聞かせ、その寂しさに耐えてきたし、
少ないとは言え、友人が居たことも幸いして、耐えてこられた。

しかし、母が自殺したとなると、自分の為に仕事をしていた訳ではなく、
自分が仕事をしたいからしていただけ……。そう考えてしまうことも多くなってきていた。

「そっか。んじゃ、これを持ってけよ!」
友人は、アランの目の前に一つの包みを手渡す。
「これは……!」
「何かと物騒な世の中だろ?俺も伊達に鍛冶屋の弟子やってないしな!師匠が物を作らせてくれるように
なったしな。それが最初に完璧にできた武器だ。これを使っててめぇの命を守ってくれや!」

「すまん。金は出世払でいいのか?」
「ああ!出世払いでいい!」
アランの言葉に友人は苦笑いを浮かべながら、言った。
「じゃあ、行って来る!」
「ああ。行って来い!」



それから10年近く、アランは彼とは直接会っていない。度々手紙を出し合い、近状を伝えあう。そんな関係だった。
前にもらった手紙からは、彼は恋愛結婚したらしい。商売も上場の模様である。

「……俺も、負けてられねぇな。」
そう呟くアランの手には、その友人からのもう一つの手紙……シベリアの動きが怪しいと書かれた……が握られていた。
カナメやヴェルゼ、マリナ達……自分の仲間たちも頑張っているだろう。
ドルファンに反乱が起きれば一歩間違えると自分たちの傭兵としての立場が危うくなる。
それだけは避けなければならない。傭兵家業も信頼からだからだ。

そして次の日からは、テラ川に行かなければならない。
現在の目の前の敵である傭兵騎士団・ヴァルファヴァラハリアンが、テラ川に陣取っているからだ。
ドルファンの騎士団が踏ん張っているだろうが、所詮はエリータス卿やピクシス卿が指揮する部隊。
数日もしないうちに全滅することは目に見えている。

傭兵の増援要請も出ているし、でなければならない理由がある。
普段は閉まっている、目の前の巨大なレッドゲートも開かれ、今すぐ出撃せよと言いたげである。
総合指揮はミラカリオ・メッセニ中佐。その元に友人のカナメとランフィル・ヴェートという仕官が一部の指揮を取る。
アランは以前、カナメを始めとする傭兵仲間たちからランフィルという仕官について聞いたことがあった。
だから、ランフィルならば自分を……否、自分たちを上手く使ってくれるだろう。直感的にアランは思う。
出撃のラッパが鳴り響き、馬に乗り、走らせる。戦場へ。
「とりあえず、やるっきゃねぇな。」



テラ川での戦いは、矢の打ち合いになっていた。
ここ連日の雨で、川の水が増水し、少しでも足が取られるものならば、川にさらわれ、そのままになるからだ。
それでも、矢の打ち合いに乗じ、川を渡り、斬り合いとなった。
「こりゃ勇気の見せ付けあいだな。」

元海賊であるヴェルゼはこの状態だからこそ、気合が入っていた。
「コーキルネイファが来る確立がある。その時はおまえに任せる。」
「りょーかい!」
言われなくても……そんなイメージを感じさせる台詞で、カナメに答える。
「はてさて……今回も生き延びられると良いが……」
二人の話を聞いていたラングは、思わず呟く。隣にいるガイも武器の中で弓は最も苦手としている物の、
ただ撃っていけばいいだけとあって、がむしゃらに撃っている。

「同感だ。行けるか?」
「行けるならな。ガイ、どうする?」
「いや、ここはヴェルゼに任せよう。俺達はここで矢を放っていればいいだけだ。」
 後方からはエリータス卿やピクシス卿が何かを喚いていた。おそらく敵を防げと言っているのだろう。
 ……何も出来ないクソジジィのクセに!……そう思ったのは外の国から来た傭兵だけでは無かった。
 メッセニ中佐の部下であるドルファンの騎士達、元々ヤング・マジョラム大尉の部下だった騎士達、
そしてランフェル少佐とその部下。彼らはただ単に私利私欲だけで動いている訳ではない。ましてや、
ドルファンの守りを傭兵任せにすることを良しとしていなかった。自分達の役目は、街にいる民を争いから守る。
それが騎士としての誇りであった。彼らと共に戦う傭兵達の大半は、誇り高い傭兵達だった。

そんな誇り高き騎士と、彼らの力になろうとしている傭兵達を嘲笑うかのように、赤い兜をかぶった
一人の少年が川を渡り、ドルファンに攻撃を仕掛けようとしていた。

やめないか!コーキルネイファ!」
老人の声だった。
その声にカナメは虚を突かれた。
その老人は、ヴァルファバラハリアンの軍師にて、「幽鬼のミーヒルビス」と呼ばれる男だからだ。
カナメは、敵であるミーヒルビスを尊敬していた。
傭兵になってからは、いつか彼を師と仰ごう……そう決めていた男だった。
だが、カナメは考えを素早く切り替えた。その老人が自分自身の敵だからだ。
敵は、倒さねばならない。
先ほどの言葉が本当ならば、川を渡ってきている少年はコーキルネイファだろう。思っていたより若いな。
少なくともカナメはそう思った。

隣で矢を撃っていたはずのヴェルゼは何時の間にか、彼に向かっていた。
彼女を援護するためにカナメは矢を放った。
「ヴェルゼ、気をつけろよ……」

思わず呟いた。
その呟きに気づいたカナメは自問自答する。
彼女が死ぬかも知れないから、無茶をしないように気をつけろと言った?
違う。1秒で答えが出た。
だったら何故言葉に出た?分からなかった。
だが、その答えが導き出されたのは、直後のことだった。
コーキルネイファの持っていたダガーから電磁波が流れ、それを川に突き刺した。
川に限らず、水の中では雷は威力を増す。水を伝って流れたそれが、ヴェルゼに届く。
「くっ……」
思わず手に持っていた刀を落とそうになるも、それを耐える。
(このガキ……今までの3人に比べりゃ全然だけどな……やっぱこいつにとって場所が良いのか……)
不利だ。普通の人間の感覚だったらそう感じていた。だが、ヴェルゼはそう感じなかった。それどころか、
目の前の敵を90%以上の確立で「殺す」ことが出来ると感じていた。義賊とは言え、元々海賊だったという
自信からだった。「昔とった杵柄」という言葉がカナメの脳裏に浮かんだ。激しい打ち合いをしていながら、
有利に戦いを運べるヴェルゼを見て、ふと頭に過っていた言葉だった。

確かにコーキルネイファの海戦や川の上における戦闘技術はヴァルファでもトップクラスであった。
だからと言って、ヴェルゼに対してその技術が通用しているかといえば、否であった。

それ程までに、ヴェルゼとコーキルネイファとの水上戦闘の場数の差は大きかった。
敵との戦いにカナメが珍しく焦れて見た先は、ヴェルゼがコーキルネイファを切り上げていたその瞬間だった!
「さっすが……」
呟くと同時に川の向こう側にいる敵に矢を放つ。
ヴェルゼの次の攻撃が決まったのはその次の瞬間だった。
目を見開き、コーキルネイファはあとずさる。
後は敵が撤退するまで攻撃を続けるだけ。誰もがそう思った。
しかしその期待は最悪の結果で裏切られた。
コーキルネイファはダガーをヴェルゼに向け突撃した。最悪でも相打ち覚悟だった。
コーキルネイファには必殺の一撃になるはずだったその攻撃は何者かに防がれていた。
「マリナ!」
目の前にいる意外な人物を叫ぶと同時にヴェルゼは後ろに下がる。
「こ……んの卑怯者が!」
「誰が、何時、何処で一対一の真剣勝負だと言った?」
コーキルネイファの叫びにマリナは冷たくあしらう。
それと同時に彼の首が飛んだ。
「隙を見せたアンタが悪いんだ。同情なんてしないからね!」
さ、追撃だ。と止めを刺したヴェルゼはキッと敵陣を見る。
しかし、その敵陣は撤退準備に入っており、そのままダナン方向に後退した。
「さすがミーヒルビス。撤退するときはあっさりするもんだな。」
相手の行動に当然かといわんばかりに川から陸に上がった二人にカナメが話し掛ける。
「カナメ!敵が突然撤退を始めた!どう言うことか分かるか?」
右翼から敵陣を攻めていたメッセニがカナメたちに駆け寄る。

「中佐!コーキルネイファの首を取ってやったよ!」
「さすがにミーヒルビスの首はやっこさんの策略で取りきれなかったがね。」
メッセニに対し、カナメはおどける。ミーヒルビスを倒せなかった言い訳のつもりに。
「そうか。取り合えずお前達にしても他の兵達にしても疲れきっている。上のバカ連中も追撃なんて考えないだろう。」
「わざわざ面倒な事をせずとも向こうから来てくれるんだから、行く必要もありませんしね。そんなことより
テツトが迷惑をかけませんでしたか?」

「それについては大丈夫だ。……やはり帰還命令だな。」
「その様ですね。」
「それよりだ。カナメ。クリスマス直前の日曜日、空いているか?」
帰還命令の花火を見上げていたカナメ達は、突然のメッセニの言葉に虚を突かれた。
「とりあえず俺は空いてますよ。」
「それでは、その日。お前とテツト。そしてお前の親友達に酒場に来て欲しい。会わせたい人がいる。」
「忘れなければ、行きますよ。さて、と!戦いも終わったことだし、帰りましょうか?我が家へ!」
メッセニの一言にワザとおどけたようにカナメは周りに言った。
生きるため、戦うカナメたち……テラ川の激しい流れは、彼らの人生の激しさを物語るようだった……


第八章へ続く


後書き

前回から半年以上掛かってしまいましたが、第七章では、ゲーム本編のD27年12月1日から
始まる「テラ川の戦い」をお送りいたします。全体的な内容ではアランとヴェルゼ、そしてマリナを
活躍させて見ましたが、どうでしょうか?
さて、前回に引き続き、オリジナルキャラの紹介を。


レナ・ファーリンクは、序章時19歳とカナメ達最年少で、西洋出身の活発な女性。
本編ではハンナ・ショースキーに近いキャラでしょうか。
レイピアの他にポールアックス(斧と槍が合さった奴ね)を使用したスピード戦を得意としています。


その兄・クラード・ファーリンク、序章時22歳。
カナメと同じく冷静な人なんですが、ややシスコンの気が有り(笑)。使用武器は槍。
暗殺やら偵察を得意としています。


ガイ・フェイナーツ、24歳。
機動戦艦ナデシコのダイゴウジ・ガイにしようと思ってたんですが……。それじゃあまりにも
まんまなので、正反対の性格に。ラング、テツトに次ぐ長身で、剣・槍の他に格闘技を極めていて、
子供好きなお兄さんです。


はてさて、次回は何時になることやら……出来る限り早くするつもりなので……(苦笑)。


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