ドキドキ!鷲羽山ハイランドDEデート



「へぇ、結構高いんだね」
「や…ちょっと!も、もっとゆっくり漕いでよっ!!」

―――誤算だった。碧は心の中で自分の読みの甘さを呪った。

この小さな遊園地に存在する乗り物は、ほとんどが絶叫マシーンだった。
せっかく進が連れて来てくれたのにまさか怖いとも言えず、
「いくつか乗っていればそのうち慣れるはず!」と自分に言い聞かせて思い切って挑戦してみたが…

 垂直に近いところから落下してうねるコースを猛スピードで駆け抜ける『ウルトラツイスター』、
後ろ向きに走る『バックナンジャー』、立ったまま乗る『スタンディングコースター』…
慣れるどころか、数をこなすほどにヘロヘロになっていく。
カップルで乗ればいいムードになる絶好のポイントである観覧車の中でも、崩壊寸前だった
精神を立て直すのに必死でそれどころではなかった。
「大丈夫?ごめんね、碧が絶叫系苦手だって知らなくて…」
碧の背中をさすりながら申し訳なさそうな顔する進を責めることはできなかった。
「べ、別に、怖いわけじゃ…ないわよ!ただ…そう、スピードが早くて
ちょっとびっくりしただけ。それだけよ…」
進への気遣い半分、プライド半分で、精一杯強がった。

「ほら、あれなら自分で漕ぐみたいだから、スピードは出ないよ」
進が指したのは、『スカイサイクル』と名づられた、二人乗りの自転車を
漕ぎながらレールの上を進む遊具だった。
ゆっくり進んでいる自転車を見て…あれなら、大丈夫。そう確信して
胸をなでおろし、何の警戒もせずに乗ったはいいが―――

地上16メートルに設置されたコースは予想以上に高く細く、カーブではまるで
そのまま放り出されるかのような錯覚を覚える。おまけにレールに覆いかぶさる
ように木の葉が生い茂っているわ、自転車は妙に古そうでギシギシいうわ…
そして碧は気づいた。これも、立派な“絶叫マシーン”であることに。
時は既に遅かったが…。

碧のペダルを漕ぐ足は完全に止まっている。だが、幸いにも(?)同乗者の
進が漕いでくれているおかげで自転車は順調にコースを進んだ。
「風が気持ちいいね〜」
進の暢気な発言に腹立ちを覚えるも、彼にはスピードさえなければ平気だと
思われてるのだから仕方ないと気付く。そう仕向けたのは自分なのだ…。
こうなったら漕ぐのは完全に彼に任せ、終わるまで目をつぶっていよう。
碧はそう決心し、固く目を閉じた。

「わぁ…」
進の歓声と共に、自転車が止まった。何事かと、恐る恐る目をあけると…
陽光を受けて輝く蒼い瀬戸内海。どこまでも遠くへ続く白い瀬戸大橋。
海から顔をのぞかせた島々と、あたりを囲む山々の深い緑。
海と山のコラボレーションによる大パノラマに、碧も一瞬見とれたが…
ふと下を見て顔を青くする。そこはコース最高のビューポイントであると同時に
最大の恐怖ポイントでもある場所だった。
カーブ地点なのでコースから外れたような錯覚があるし、下には、万一の時に
受け止めてくれそうな木もほとんどなく、見えるのは堅そうなコンクリートの地面。
「綺麗だね…」
「そ、そうね…でも、ほら、早く進まないと…後ろ、つっかえちゃうわよ?」
碧は少し声を震わせながらも、精一杯平静を装って進を促した。
「大丈夫だよ、後ろ、来てないし。だからもう少し見てようよ」
進はにこにこしながら言うと、再び絶景に見入った。
「ちょっ…ちょっと、すすむ…」
「あ、そうだ。せっかくだからこの景色を撮っておこう♪」
進は前かごに入れたカメラを取り出そうとした。
(注:自転車に乗りながらの撮影は危険なので止めましょう!)
その拍子に、自転車はギシギシ音をたてて揺れる。
「は…早く降ろしてよーっ!!」
鷲羽山に、碧の涙交じりの絶叫がこだました…。


ネタ的に大好きな遊園地・鷲羽山ハイランドで好きなカップルがデートをしたら…と
妄想して書いたものです(爆)。碧ちゃんが絶叫マシーン苦手とか高所恐怖症とかいった
設定は公式にはありませんが、なんとなく苦手そうだなぁと、勝手な思い込みで(何)
ちなみにわたしも絶叫系はダメで、鷲羽ハイに行っても乗り物にはほとんど乗りませんが…隠れた
最強の絶叫マシーンと言われているスカイサイクルは平気だというのが唯一の自慢です(←レベル低っ!)

(09/6/7)


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