絆の故郷
(杉崎 光さん・作)



アスルとエレナの乗った馬車が黄金の稲穂揺れる中を進む。


ジパングでやまたのおろちを倒しヒミコの葬儀が終わったのはつい先日。
次の場所へ向かう為に船に乗ろうとしたが折からの嵐で海は大荒れ、
漁師から聞いた話では治まるには数日かかるだろうとの事。
ルーラやキメラの翼で付近まで飛ぶことも考えないでもなかったが
激しい戦闘で消耗していることもあり、いい機会なので少し長めの休息を取る事にした。

武闘家のランはサムライやシノビ達と組手等の稽古をし、
賢者のレオンは文官達から古文書を見せてもらい情報収集に入る。
そして、勇者アスルと僧侶エレナはミヤコでツボに隠れていたやよいの誘いにより
彼女達の故郷ビ・ゼンへと赴いた。

いくら狭い島国とはいえ、それなりに大きなジパング
早朝出発したにもかかわらずビ・ゼンに到着したのは太陽が天頂に昇った時刻だった。

「いらっしゃいませ」「ビ・ゼンの町へようこそおいでくださいました」
馬車から降りたアスルとエレナを子供達が出迎える。
「あの、やよいさん。この子たちは?」
「町もすごいことになってるな」
アスルとエレナは町の盛況ぶりに目を瞠った。
「今日はビ・ゼン焼祭りなんです」
やよいはそんな彼らに説明する。
「私、聞いたことがあります。とても質の良い器やツボの産地だとか」
エレナはつぶやく。
「我々はここでツボを作り、ミヤコに納めておりました。
食器なども一部は他国に輸出していると聞いては居ましたが…」
やよいの父は顎を撫でた。
「思い出しました、母が大事に使っています。旅先で再会できるなんて…」
エレナは故郷を思い出したのか懐かしそうな顔をする。
「数刻後にやよいが舞を舞うので見て行かれますかな」
やよいの父が切り出した。
「舞、ですか?」
アスルは首をひねる。
「元々は焼き物が上手に焼けるように、漁が上手く行くようにとの願いを込めたものでした。
が、ヒミコ様がああいう事になってしまったので今回はその鎮魂も兼ねています」
やよいの父の目はどこか優しい。
「アスルさん…」
「エレナもかい?」
アスルは彼の袖を遠慮がちに引くエレナに微笑む。
「ぼくも実は見たいと思ってたんだ、エレナもおんなじ気もちで嬉しい」

実際の舞が始まるまでいくばくか時間が開いたので二人は祭りを楽しむことにした。
深い経験を重ねた匠の手によって作られた逸品もあれば、
家族でやっている小さな工房で作られた品物もある。
修業を始めた若手作家たちが集まり共同で出店しているのはアクセサリーや箸置きなど
食事を売る屋台では、ビ・ゼンならではの珍しくもおいしい料理が販売され、中央の
簡易テーブルで食べられるようになっている。
バラモスを倒すための旅を続ける都合上かさばる物を持ち歩くことはできないので、ビ・ゼン焼き
そのものを購入することはできない。
しかしそれでも二人は彼らの熱意を感じ食事に舌鼓を打ち、祭りを大いに楽しんだ。

鐘楼の鐘が鳴り、やよいが舞う時間が近づいたことを知らせる。
舞台のある広場に着くと、そこではやよいの父が和紙と筆を手に出入り口を心配そうに見ていた。
しばらく待っていると、音楽が鳴って舞の始まりを知らせた。
猪の面をつけ黒い衣装を身にまとった女性に続いて、魚の面に青い衣装のやよいが出てきた。
音楽に合わせて二人は舞い踊る。
猪の面の女性が歌うのに合わせてやよいは引き立てるように舞う。
ふと、アスルはやよいの父に目をやった。
彼の目は優しそうで誇らしげで、どこか寂しそうで。
そんな目をアスルは見た事がある。
父から初めて剣で勝った時、初めて呪文が使えるようになった時。
そうだよね、子供が成長していくのは嬉しいよね。
辛いよね、寂しいね。成長する事はいつか手を離れていくかもしれないって事だよね。
父さんもそんな気持ちでぼくを見ていたんだろうな。
旅をする中で、様々な人に出会い色々な事に遭遇してわかった事。
ぼくは、父さんにそんな気持ちで見て貰えるくらい成長できているのかな。

「…さん、アスルさん」
「あ、エレナ」
「終わりましたよ」
エレナが袖を引くと舞は終わってやよい達が楽屋に戻る所だった。
やよいの父の誘いで楽屋に行き、エレナはやよいの着替えを手伝う。
一息ついた所でエレナはやよいからビ・ゼン焼で出来た小さな亀を渡された。
「やよいさん、これは?」
アスルの問いにやよいは答える。
「私達の国では、亀は身を守り知恵を与え家族に恵まれると言われています。
おろちから助けて下さったお礼には及びませんが、旅のお守りとして…」
旅の邪魔にならない物を懸命に選んだのだと思うと二人は胸がいっぱいになった。
「やよいさん、ありがとう」「旅のお供にしますね」
エレナの掌に乗せた亀にアスルが手を重ねて共に礼を述べる。


その日はビ・ゼンで宿を取り、翌日二人は馬車に乗り再びミヤコへと戻った。
アスル達の姿を見つけたランとレオンが早速駆け寄ってくる。
「ね、ね、どうだった?ビ・ゼンの町は」
「いいものを見つけられましたか」
飛び跳ねながら寄ってくるランは短期間の稽古で何かを掴んだのか動きにキレがあり、
レオンは何を書き写してきたのか両手が墨で真っ黒尚且つ小脇に紙の束を抱えている。
「うん、すごくいいものを見つけたよ」
「宿でこれから話すわね」
魚料理と温泉が売りの宿をランとレオンが見つけていたらしく二人の手を引いてゆく。
何を話そう、何から話そう。
四人はそれぞれの思いを抱えながら宿への道を歩いて行った。


杉崎さんと岡山・備前市で開催された「備前焼祭り」にご一緒させて頂いたのですが、その時の
エピソードをうまく盛り込んで、しかもマイDQ3キャラ達でこのような素敵なお話を書いて下さいました〜!!
その時行われた、ゆるキャラ・ペッカリーとまなっちのステージもDQ3の世界観に合わせて変換
されてますし(笑)、わたしから杉崎さんへプレゼントさせて頂いた備前焼の亀(の箸置き)も
ビ・ゼン焼きの亀として登場してるし、他にもご一緒させて頂いたからこそ分かるネタが盛りだくさんで、
随所でニヤニヤしましたv何より、アスルもエレナもランもレオンも、キャラを的確につかんで頂けているのが
すごくすごく嬉しくて…!!こんな休息いいなぁ〜♪
杉崎さん、楽しい時間と素敵なお話、本当にありがとうございました!

(14/12/15)

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