ウサギのぴょん子恋物語
〜バースディパーティの戦いでぴょん!〜後編


「まずはパーティネタで必ず使用される“ケーキが顔にベチャ!”作戦よ!!」
ネ子さんはそう言うとテーブルの上のケーキを手に取った。
そして目一杯の作り笑顔を浮かべて、それをサル美に渡した。
「サル美さん、これ、イヌ夫に渡してあげて♪」
「あ、ええ」
サル美は何も知らずににっこり笑ってそれを受け取った。
ククク……よぉ〜し……
あたしはサル美がイヌ夫にケーキを渡そうとした瞬間、思いっきり体当たりした。
ケーキはべちゃ……っと音を立てて、イヌ夫の顔にへばりついた。
「あん、ごめんなさい……ちょっと前足が滑っちゃって……」
あたしはわざとぶつかったことを隠すためにサル美に謝った。
「い、いいのよ……わたしは大丈夫……それより、イヌ夫さんが……」
「んん〜っ、んまい♪」
えっ!?……イヌ夫は舌で自分の顔に付いたクリームを舐め始めた。
イヌ夫の舌って……長い! 目のまわりのクリームまで舐め取っちゃった!!
「あ〜うまいや、やっぱりママが作ったケーキはサイコーだ」
「ご、ごめんねイヌ夫さん……」
「ううん、いいんだサル美さん。美味しかったから。ゲフッ」
イヌ夫は小さなゲップをして、サル美に微笑みかけている……
が〜んっ!!
ちくしょー!失敗しちまった〜い!!
「貴方のせいよ、ぴょん子!!」
ネ子さんがあたしに非難の視線と言葉を投げかける。
「何よ!ネ子さんの作戦がいけないのよ!!
今時“ケーキがベチャ!”なんて志●けんですらやらないわよ!!」
あ〜っ、やっぱりあたしこの猫嫌いだわ〜っ!
タカビーだし態度でかいしチョームカツクってカンジィ〜!
……でも今はとりあえずあの猿を消さなきゃ……
フフフ……なぁに、あの猿の後はこのクソネコよ!利用するだけ利用して
後で蹴落としてくれるわ。うふふっ♪

あたしは気を取り直し、再び作戦を練った。
「そうだわ、あいつはいやしい猿よ!バナナには目がないはず、奴がバナナを
がつがつ食らう醜い姿を目の当たりにすればイヌ夫もゲンメツしちゃうハズ!」
「あら、貴方にしては良いアイディアね」
こ……この猫……いちいちカンに障るメスね〜っ!!
猫を殺すと7代たたるという言い伝えがなかったら殺してやるところだわっ!
「サル美さぁ〜ん……」
ネ子さんが文字通り猫なで声を出しながらサル美に近づく。
「あら、なぁに?」
「ねえ、ほら……バナナ食べない……?」
ふふふ……馬の目先にニンジン、猿の鼻先にバナナ!!
バナナを目の前にして飛びつかない猿はいないはずよ♪
さあ、下品きわまりない本性をイヌ夫の前にさらけ出すのよ!
「ご、ごめんなさい…わたし、バナナ嫌いなの……」
ええええ〜っ!?そ、そんなバナナ〜ッッ!!
バ、バナナが嫌いな猿がいるなんて……そりゃあ、例外のない規則はないけどぉ……
でもあんまりだわ〜っ!これじゃあ作戦失敗以前のもんだいよぉぉ〜っ!!
「フ、フン、所詮ぴょん子の作戦、うまくいくはずはないと思っていたわ」
バナナを投げ捨てたネ子さんがあたしをにらんだ。
「さっきといってることが違うわよっ!調子のいい猫ねっ!!」
「ま、兎の脳味噌で考えつくようなことなんてたかがしれてますものね」
「猫の脳味噌だって同じ様なもんでしょうが〜っ!!」
この猫と手を組もうなんて考えたのがそもそも間違いだったわ!やっぱり嫌いな物は嫌いなのよ!!
あたしたちはついに互いにつかみかかり、喧嘩を始めた。
「き、君たちぃ〜、喧嘩はよくないよぉ……」
はっ……! イ、イヌ夫!?イヌ夫が!!
イヌ夫が少し困ったような顔をしてこちらを見ている……。や、やばい……!
「ぴょん子、イヌ夫に嫌われちゃあ元も子もないわ!一時休戦してもう一度作戦を練るのよ!」
「し、仕方ないわね……」
「ねえ、この際あの猿をとりあえずイヌ夫から引き離す事だけ考えない?」
「そうね、お人好し……じゃないお犬好しのイヌ夫に誰かを嫌わせるなんて、難しいわよね……」
あたしたち一羽と一匹は一休さんのポーズで作戦を考えた。

ポック、ポック、ポック、チ〜ン!

『そうだわ!“滑って転んで大分県”作戦よ!!』
あたしたちは同時にぽんと前足を打った。
「フッ……気が合うわねぴょん子」
「今度こそはうまくいきそうな気がするわね」
にやりと笑って頷きあうと、あたしたちはさっき放りなげたバナナを拾って
皮をむき、半分ずつ中身を食べた。
「この皮であの猿の足を滑らせ、すっころばせて気絶させてやるのよ……」
「くくく、猿め、ゴートゥーヘル!!」
サル美がイヌ夫にドッグフードクッキーを渡そうと近づいていく。
「今よ!!」
ネ子さんの合図であたしはバナナの皮をサル美の足下に投げつけた。
「きゃ……!」
よっしゃ!猿め、ざまあかんかんかんかんばんさんかん!!
見事にバナナの皮を踏みやがったわ!サル美はそのままずっこけて……って、
な、なんで前のめりに倒れるのよ!?
あ、ああ……あああああああ〜〜っ!!

「……イヌ…夫さん……」
「サル美さん……」
ちょっと……どうなったわけ!? 
あたしとネ子さんは恐る恐るイヌ夫とサル美の前に回り込んだ……

げげげげげーーーーーーーっ!!

イ、イヌ夫とサル美が……キスしてる〜〜っ!?
「ご…ごめんなさい…バナナの皮が落ちてて、滑っちゃって……」
「い、いいんだ、サル美さん…大丈夫かい?」
二匹はいい雰囲気で見つめ合っている……
な…なんで……なんでこうなるの〜っ!?



あたしは家に帰って自分の部屋のベッドに寝転がり、今日の忌まわしい出来事を全て、
“マロ●クリーム”―─サ●リオのキャラで、可愛いウサギちゃんよ。
ちなみに“ハ●ーキティ”は猫だから嫌いよ!
“おさるのも●きち”なんて論外だわ!!―─の日記帳につけた。
あの後ネ子さんと大喧嘩して、ヒゲ抜かれるわ耳噛まれるわひっかかれるわでボロボロよ。
まあ、あたしもネ子さんのしっぽかじってやったけど……
それよりなによりイヌ夫とサル美がキス……ああ、思い出したくもないわ!!
……でもあたし、絶対イヌ夫のことあきらめないからね……
サル美も、ネ子も、その他イヌ夫のことが好きなメスども…ああ確かカタツムリもいたわね……
とにかく、雌雄同体の奴も含めてライバルはみんな、いつか消してやるわ!!
イヌ夫は……イヌ夫はあたしのものよーっ!!


──終                       


戻る