生きる者達と死せる者達へ祝福を 序章・会わせたい人 (糸蒟蒻さん・作)

 

「いてぇーっ!」
「まったく、おまえという奴は……疾風のネクセラリアを倒した男とは思えん。」
「そ、そんな事言ったって……テディーさん、もう大丈夫。」
 ドルファン王国の病院内で、一人の男の叫び声と(もう一人の男の冷静な声も)が響いた。
 その声の正体は東洋から来た傭兵風の兄弟。  壁に寄りかかり、少年に声を掛けるのは、
兄のカナメ・カワギシ(川岸要)。 腕をテディーと呼ばれる病院の看護婦に包帯を巻いてもらって
いるほうは弟のテツト・カワギシ(川岸鉄人)。 二人とも、半年程前に傭兵としてこの国にやってきた。
「だけど兄貴……大尉が死んだって本当なのかな……」
「恐らく本当だろう。中佐が遺体を確認したんだ。間違いは無いだろう。」
 カナメはそうつぶやきつつ、ため息をついた。冷静に弟に言葉を返しているが、彼自身恩師の死に 耐え忍んでいる。
「そう言えば、あの人……昨日の戦いが終わったら会わせたい人がいるって言ってたけど……誰だったんだろ?」
「さあな。縁があればそのうち会えるだろう。そのときを期待して待つしかない。」
「そうだな。それじゃあ、テディーさん。ありがとう!」
「いいえ。それじゃあ、今度は来週に来てくださいね。」
「げぇっ!まだ続くの?」
 テディーの笑顔に、テツトの表情が青ざめる。
「当然です。まだ完治してないんですから!」
「文句言っている暇があるならとっとと来い!」
 兄の言葉に、「そ、それじゃねぇ!」とテディーに手を振り、走り去っていった。

 

「えーっと、ここの墓だったっけ……」
「その筈だが……ああ、そうだ。それより花はこれでよかったのか?」
 カナメは手に持っている白い花を見つつ、弟に声をかけた。
「いーのいーの。墓の前に持ってくものだから、赤い花よりはいいでしょ?」
「……まぁ、いいか。」
「あの、ここは私の主人の墓なのですが、何の御用でしょうか?」
「!っと、俺らはヤング・マジョラム大尉の隊にいた人間で、前の戦で死んだ大尉の墓参りに来ただけだ。」
 弟の言葉に、「仮にも死者が眠ってるところだから、騒ぐことはないだろう」と思っているところに、
後ろから女性の声が聞こえた。
「そうですか……私はクレア・マジョラム。」
「俺はカナメ。こっちはテツトだ。あんたの旦那の墓の前で騒いでいてすまない。」
「貴方たちが……そうなの?」
「え!何が!」
「そうか。大尉が合わせたいって人は……!」
 クレアと名乗った女性の言葉にテツトは驚いた表情をしていたが、カナメはその言葉の真意を悟った。
「主人は貴方たちを私に合わせたいと言っていたわ……とりあえず、いまからでも家に来てほしいの。」
「……いいんですか?」
「ええ……貴方たちからあの人が死んだ状況を教えて欲しいの。」

 

「……そうなの……セイル・ネクセラリア……彼が……」
「それで、その後こいつが先走ってそいつを倒した。腕の包帯はその時のものだ。」
「そう……」  
その時のクレアの表情で「特攻かけて返り討ちにあう戦い方をしたものだ。」とカナメは言う事が出来なかった。
「ありがとう。二人とも。」
「いえ。そんじゃ俺たちはもう遅いから、ここで失礼します。」
 無理な作り笑顔で礼を言うクレアに、テツトも作り笑顔で返した。
「あ、それなら夕食を食べてからにしたらどうかしら?……一人で食べるのも味気ないし……。」
「それならご一緒しますが……覚悟しておいたほうがいいですよ。」
「どうして、ですか?」
「こいつは5人分は食べますからね。」
「あら、沢山食べてくれる方が作り甲斐があるわ。」
 そのときのクレアの笑顔は、さっきのものとは違い、輝いて見えた。  
少なくとも、カナメにはそう見えた。

 

「おかわり!」
「少しは遠慮しろ。これでどれ位食べていると思っている。」
「だけど、すっげぇうまいよこれ。」
「あら、ありがとう。テツト君。カナメさんも遠慮しないでくださいね。」
「そ、それじゃ……」
 クレアの言葉に頬を赤らめて、茶碗を差し出した。
(兄貴、もしかしてクレアさんに惚れたとか?)
(ばっ、バカ野郎!)
「どうしたのかしら?二人とも?」
「い、いえ、何でもありません!」  
突然現れたクレアに、カナメは驚いて顔を真っ赤にした。  
戦争の中で、二人は一時のやすらぎを感じていた。

 

第2章へ続く

(01/6/5)


後書き

初めまして。糸蒟蒻と申します。 みつナイもの最初のssです。 いかがでしたか?
主人公カワギシ兄弟を中心に様々なキャラクターがこれからドルファン内で
暴れまくる予定ですので、よろしくお願いします。 では次回で。


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