生きる者達と死せる者達へ祝福を 第三章・少女(糸蒟蒻さん・作)

 

「どうやら本当に大丈夫みたいだな。」
「ああ。あんた達には世話になったな。」
 ジーン・ペトロモーラと名乗った女性と会って、約1ヶ月程たった。
 その女性の友人、ケルンが退院するとテディから聞いて、カナメとテツトは訓練所帰りに見舞いに行った。
「すまんな。迷惑をかけて。」
「いーって。俺達もエリータスの人間はムカついてるし。」
 ケルンの申し訳なさそうな言葉に、テツトは能天気に手をパタパタと上下に振らす。
 カナメも気にしていないと、目で伝える。
「そんなことより、あのお嬢ちゃん……ソフィアだったっけ?」
「あいつの事は、アランに任せておけばいい。俺達が手伝うといっても聞かぬだろうからな。」
「……分かった。そうしよう。」
 カナメの言葉にまだ不満気ではあったものの、ケルンは引き下がることにした。
「ともかく、退院した直後に酒を飲むのは厳禁、だぜ?まだケガが完治してないんだろ?」
「飲むかあっ!」
 からかうようなカナメの言葉に、ケルンは大声を上げ、直後に口を押さえる。
 テツトはそれを見て笑いを押さえようとしていた。
「ともかく、だ。よほどのことがない限りあんなバカ相手にする必要はないからな。」
「分かってる。」

 

「さて、次は……」
カナメ達が病院にいる頃、噂の本人は、商店街で日用品を買い込んでいた。
「あっ!アランさん!」
「ん?あぁ、ソフィアか。」
「買い物……ですか?」
「悪いか?」
 ソフィアの意外そうな言葉に、アランは不機嫌な表情をする。
「え?あ、ちょっと意外だったもので。」
「俺があまり料理とかするタイプだと思ってないだろ?」
 その言葉に、ソフィアは思わず頷いてしまう。
「まぁ、よく言われるけど。」  
ソフィアの顔を見て、アランも苦笑いを浮かべてしまう。
「さて、こんなモンか。途中まで持つよ。」
「え?いいんですか?」
「ま、途中までだけどね。」
「それじゃ……こっちをお願いします。」

 

「しっかし、この国の上層部は何を考えてるんだろな。」
病院からの帰り道、カナメ達三人は軍の上層部に対するグチを言っていた。
「マトモなのと言ったら、メッセニ中佐位だが。」
「ていうかさ、国王が無能の筆頭?みたいな。姫さんに簡単に城外脱出されてるんじゃ、俺達傭兵に
力を借りなきゃやってけないって話もうなずけるってーかさ。ヤング大尉が死んだってのは、
この国での大きな損失だよな。」
「姫さんってプリシラ王女のことか?確か、王女としての仕事は、凄まじく評価が高いっていう?」
二人の言葉に、ケルンが聞き出す。
「ああ、そうらしいな。いっそのことその姫に国王やってもらったらいいんじゃねぇ?」
ケルンの言葉に、テツトは冗談半分で言い出す。
「テツト。冗談半分でも、めったな事言わない方がいいぜ。バカな連中が反乱を起こしかねない。」
「それと、軍関連者が聞いてたら俺達は逮捕されるぜ。」
「ま、そりゃそーだ。」
そう言うと、三人は笑い出す。
「お前ら、聞かれたらマジで大変なこと起こるってーの。」
「あら、アランさんたら、聞いてたのね。嫌だわ、オホホホホ。」
「テツト。それちょっと怖い。」  
アランに対して右手を頬に当ててワザとらしく笑うテツトに、カナメとケルンの言葉が妙にハモる。
「冗談だっつの。それよりお前、デートか?」
「まさか。今日はたまたま会っただけ。」
ソフィアを見ながらアランにからかうテツトだが、当の本人は軽く否定する。
「そんなことより、俺は王族に関する変な噂を二つ知っている。」
「え?」 突然のアランの言葉に皆一様に驚いた声を上げる。
「まず、一つ。王女が国王の実の娘じゃない……と言う噂だ。信憑性はゼロに等しいがな。」
「だけど、それが本当なら誰がそんなことを?」
「確かに、こっちの嬢ちゃんの言う通だぜ。ゼロじゃあないなら、そう言う確率もあるだろ?」
軍に関係ないソフィアと、策に疎いテツトがアランに聞き出す。
「おそらく……国王に最も近い、ピクシス卿だ。確かピクシス卿の娘が現在の王妃だったはず。」
 その疑問には、アランより先にカナメが話す。
「?なんでそうなるのさ?」
「分からないのか?現王妃は、病弱だ。そんな人が子供を産むことが出来るとでも?」
「それじゃ……!」
「そう。娘の不幸を嘆いたピクシス卿が代わりにプリシラと名付ける子供を用意したと考えても
おかしくないって事だ。」
「成る程。だからそんな変な噂が流れる訳だ。それじゃ、もう一つの噂ってのは?」
「ヴァルファのリーダーが現国王の兄の確率が高い……とかそんな所じゃねぇのか?」
「え?何で分かったの?」
カナメのフェイントにアランは驚いた声を上げる。
「何となく。んで、そんな噂が立つ理由は、だ。」
「理由は?」
「数年前、本来王位継承者だった現国王の兄が大やけどをして死んだって話は知ってるな?」
「え、ええ。当時かなりニュースになりました。」
「嘘は王族……いや、議員どもの十八番だ。その連中の一部が現国王派でその王を立てるために
その兄をこの国から追い出せば、次の国王は一人しかいない。」
「それが現国王か。」
「そう。もちろん、議員の連中は本気で殺すつもりでやる。俺も連中の立場だったら、
本気で殺すつもりでやるさ。だけど、殺したとおもった男は本当は死んでなかったら?」
「確かに辻褄があう。」
カナメの説明に、皆一様に納得する。
「きゃっ!」
その時、テツトの肩に何かがぶつかってしまう。 悲鳴のあった方に皆が向くと、
長い髪を三つ編みでまとめた少女が尻餅を付いていた。
「す、すまん。怪我とかなかった?」
テツトが慌てて少女に手をさしのべる。
「こちらこそ、ごめんなさい。よそ見をしていたから……」
テツトに持ち上げられながら、淡々と少女も謝罪の言葉を述べる。
(……?この感触……なんだ?)
 手袋越しに何かを感じたのか、テツトは兄の方に向く。
(顔には出すな。)
その疑問を感じたのか、カナメは目でそう伝える。
「それじゃ、急いでるから。」
少女は無表情で会釈した後、走り去っていく。
「どうしたんだ?」
カナメ同様テツトの表情を敏感に読みとったケルンが彼に聞き出す。
「いや、なんか、手の感触が……そこいらの女の子の物じゃなかったから……」
「ソフィア、あの子のこと、知ってるか?」
「え?確か、ライズ・ハイマーって名前だったはずですが……確か普段は一人でいることが多いから……
そう言う意味では印象に残るタイプじゃないような……」
アランの言葉に、ソフィアは曖昧な態度をとる。
(もしかしたら……彼女と剣を交えることになるかもしれないな。)
その態度に、カナメは当たる訳がない予感にさいなまれていた。

 

第4章へ続く

 


 

後書き
第3章如何でしたか? 次回から本格的なストーリーが始まるだけに、
結構苦労したようなしてないようなって感じですが。 ライズをどうやってだそうかかなり悩みました(笑)。
みつナイのSSを書くとなれば出さなきゃならない(?)キャラだけに苦労も人一倍だったり(爆)
と言うことでオリキャラの解説を(といっても一人しかいませんが)。
前回から登場したケルン・ファーメルツは、みつナイに出てくるヒロインの一人、
ジーン・ペトロモーラの友人で21歳。 性格は生真面目な反面、喧嘩っ早いところがあると言った所です。
(うわっ!簡潔だなヲイ!)

 


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