生きる者達と死せる者達へ祝福を
 第四章・ヴァルファの騎士二人
(糸蒟蒻さん・作)

 

ドルファン暦27年5月9日……後に「ダナン攻防戦」と呼ばれる激戦の3日目。
ドルファンとヴァルファの戦いがここダナンで繰り広げられていた。
軍勢にして、謀反したプロキア王国に牽制するためにダナンから出撃する
傭兵騎士団ヴァルファバラハリアンは攻撃するドルファンから味方軍勢を守る為に
殿に残った、バルドー・ボランキオとルシア・ライナーノール、そして約4万の兵。
そしてドルファン側は総大将をミルカリオ・メッセニ中佐に据え、エリータス卿と
ピクシス卿が中心的な指揮を取ることに。そしてドルファン騎士そして
傭兵合わせて約5万。追うドルファンの方が兵力では優位に立っていたが、
将の能力ではやや劣っていた。  
そして、その3日間の結果は一進一退、決着の様子は見られなかった。
「ふむ。おい、カナメ。」
「何でしょうか。メッセニ中佐。」
その戦況を冷静に判断していたメッセニは、イリハ会戦で活躍していたテツトの兄で
軍師と言っても過言ではない男を呼ぶ。
「ああ。我々は目の前にいるライナノール隊を撃破するのだが、
お前にライナノール隊の進路を塞いでほしい。」
「ボランキオ隊の援護があるかもしれないことを予見して……ですか?」
「ふっ。だが、他の地区の指示を出している無能な老人どもにやらせるよりは
貴様に任せたほうがいいと思うがな。4千ほどお前に預ける。やってみてくれ。」
「分かりました。すぐさま行動を開始します。
行動を開始する!兵・傭兵合せて4千は俺に続け!」
「……確かに、ピクシスやエリータスの老人どもは彼に指示した事はおろか、
ボランキオ隊の対処もまともにできません。しかし、ライナノール隊の後ろを
取られれば、 ボランキオ隊も流石に陣営が乱れる確立がある。それができるのは、
彼を置いて他にはいないでしょう……」
カナメを見送るメッセニの後ろで、ドルファン仕官の一人が彼に話しかける。
彼は名をランフィル・ヴェートと言い、ドルファン王国正規軍人の中でも
メッセニ中佐と今は亡きヤング大尉同様、王国軍人の中でも指折りの良識派であり、
そのメッセニ・ヤングと比べても頭脳的な男である。
主に彼の仕事は、物見……つまり相手の戦力を調べる偵察部隊にあたる
部隊の部隊長である。
「ランフィル准佐。だからといって任務を放棄する理由にはならぬぞ。」
「分かっています。分かっていますって!現在、ライナノール側に2万5千、
そして残りの1万5千がボランキオ側に配属されています。
ボランキオ側はテツトやアランを始めとする傭兵陣が踏ん張ってますから
最悪2千の損害は与えられると思いますが。」
「分かった。偵察を続けろ!」
「りょーかい!」

 

「どうやら中佐さん、お前のアニキにライナノール隊の進路を塞ぐように命じたようだぜ。」
ボランキオ隊の兵を二人、素早く槍で突き刺したあと、アランは隣にいる相棒に声をかける。
「ま、当然だな。兄貴ならうまくやってくれる。つーより兄貴の脳みそに勝てるやつなんて
昔中国にいた諸葛亮とか言うやつしかいねぇよ!」
自分の身長よりも巨大な大剣で次々とヴァルファの兵士をなぎ倒しつつ、テツトは答える。
「へぇ……結構な信頼と自信で……ま、そうはっきり言われると俺もそう思えてくるよ。」
 二人はまるで平和な公園の中に居るかのように、話を続ける。
「そんなことよか、ピクシスやエリータスの老人達が何考えてるかとか何とかって、
軍師の兄貴殿は何か言ってなかったか?」
「考える以前に興味ねぇと!考えてるひまがあるなら女口説く言葉を考えてるってさ!」
「確かに!そのとーりだ!」
「まったくだ!そんなことよりアラン……変だと思わないか?」
「どの用に……だ?俺と同じだと祈りたいな!」  
苦笑いしつつも互いに次々と敵を倒していく。この二人は殺す殺さない以前に
相手との戦いが楽しくてしょうがないのである。
「ああ……連中、俺達が倒したよりも減ってるような気がしてならない。
戦いが始まってから数時間しか経ってないってーのにおかしいと思わないほうが変だ。
多分他の連中も同じコトを感じてるだろうよ!」
「同感だな。だが、俺はその説明ができる。95%の確立でボランキオ隊・ライナノール隊の
ど真ん中を堂々と進行中のお前の兄貴の隊を片付けてから俺らというつもりなんだろうよ!」
「成る程な。中佐さんもよくよく考える……ってね!」
「全くだ!チッ……俺もカナメと一緒に戦いたかったぜ……」
ぼやくアランの瞳に1人の男が映し出され、その考えが心の中で覆されたのは数分後の事だった。

 

「カワギシ隊長!後約3キロ程で敵後方を確認!」
「そのようだな。敵の後方まで着いたら……」
「逆方向を向き、敵を攻撃ですね?了解!」
(騎士と言っても色々いるもんだな。ジョアンみたいな奴ばかりじゃないんだな。)
カナメは判断力の良いドルファンの騎士をみて、ふとこう思う。
そして町にいる人間に「守ってやってるんだから色々やってもいい」という傲慢な態度を取るだけの
人間だけだと思う自分自身の考えを恥じてしまう。
そんな彼らに自分が何が出来るか……恥じらいと共にそう思う。
それに対する答えは分かりきっていた。
彼らを生きてドルファンにいるであろう家族の元に帰す……それが家族のいない自分達にすることだ。
「それだけじゃない。」
「は?」  
そう思うと自然と声を発してしまう。
「それだけじゃない。可能な限り、騎士も傭兵も生きてドルファンの町にいる家族や仲間の元に帰る。
俺達は、前の戦いで死んだ人たちの分も生きる義務がある。そうだな?」
「そう、ですね。俺、馬鹿でした。」
「何がだ?」  
カナメは自分の後ろにいた騎士の1人の言葉に思わず反応する。
「俺、ヤング大尉の後を追って死のうと考えてました。でも、それは間違いでした。
隊長はそれを分かってたんですね?」
「過ちを持っていたのは俺も同じだ。」
「何ですか?」
「俺は……少なくとも俺個人はこのドルファンに来る前にお前達ドルファンの騎士たちを
ジョアン・エリータスみたいな傲慢なだけの騎士ばかりだったと考えていた。
だが、それは偏見だとお前達が、そしてメッセニ中佐や亡くなったヤング大尉が教えてくれた。
すまないと思ってる。」
「そ、そんな……」
「カナメ。俺達は存在意義を持ちたいが為にここに来たんだろう?お前の友人も、お前の弟もだ。
ただ金を貰う為に来た訳じゃないはずだ。ただ残虐なだけの傭兵だったり戦いや戦争を
維持してほしいと願う傭兵だったらドルファンにくる理由なんて無いさ。」  
二人の話を聞いていた傭兵がカナメに声を掛ける。
「そうだな。……そうだった。行くぞ!ヴァルファの連中を一掃するぞ!」
「当然!」
「了解しました!」

 

「何?ライナノール隊が包囲されただと?」
「はい!指揮官はカナメ・カワギシ!ボランキオ隊・ライナノール隊の真中を突破した隊です!」  
ボランキオ陣営で、その指揮官、不動のボランキオがアランとの一騎打ちの最中にその報告を受けた。
「よそ見してる暇があるかってんだ!くらいな!」  
部下の報告で一瞬の動揺を見せたボランキオに、アランの連続攻撃が入る。  
しかし、その攻撃もボランキオの体どころか、鎧すら貫通する様子を見せない。
(やはり、俺の槍じゃ鎧をぶち破るなんて真似はできないか……やはり首を一突きするしかないが、
それを奴が許してくれるかな?)  
攻撃を防がれたと言うのに、アランは動揺を見せない。それどころかボランキオを倒す段取りを
冷静に踏まえようと努力する。
(よし。最初はテツトの剣よりでかい斧をぶっ壊してみよっかね。)  
そう判断するとアランは後ろに跳躍し、左右にステップを踏みながらボランキオに接近する。  
そのアランの動きを反撃体制で見極めるボランキオ。
(接近直前に上に跳んで俺の首を取るか?いや、それだ!)  
ボランキオがそう思った瞬間に、アランはボランキオの上に跳び、彼の首を狙おうと槍を突き出す。  
思考を巡らしていたため、一瞬の動きこそ出来なかったが、その槍を斧で確実に防ぎ、逆に反撃を貰う。
「チィッ!なら!」  
着地直後に素早く槍を突き出し、ボランキオを倒そうとするものの、斧で防がれてしまう。
(チッ、この傭兵……アランとかいったな……やってくれるわ!)
(噂なんてつまらんもんだ。こいつ……噂以上に強い!気ぃ引き締めていかなきゃなんねぇな……)

 

「後ろから奇襲と思えば今度は一騎打ちとはな……意外性の高い軍勢だということだな!」
「この女……連続性のある攻撃だけじゃない!防御もしっかりしている!
流石はヴァルファ八騎将の1人といったところだ!」  
カナメたちの所でも、カナメ対ライナノールの激戦が繰り広げられていた。  
その様子はドルファン・ヴァルファ両陣営の兵士達が固唾をのみ、
決着を静かに待ってしまうほど激しいものだった。
「カナメと言ったな……貴様を倒し、バルドーの援護に行く!くらえ!氷炎斬!」
「そうはさせるか!必殺必中!ライトニング・バスター・クラッシャー!」  
二人の叫び声の直後、ライナノールの左手に持っていた剣から光り輝くダイアモンドの様な氷が
カナメに向かって飛んでいった。  
しかしカナメはそれに動じず、闘気の雷を帯びた剣でライナノールに突撃する。  
直後、カナメの足が凍りつき、下半身から上半身へと氷が付着していく。  
そして、ライナノールは炎を帯びた剣でカナメに攻撃を仕掛ける。
「チィ!そういうことか!だが!」
「何!私の剣を受け止めようとするのか? だが、私の技に死角などないんだよ!」
「だったら俺のライトニング・バスター・クラッシャーでその死角をぶっ壊してやるよ!」  
今にも凍りつきそうな腕と顔を無理矢理に動かし、そこに付着した氷を水へと変化させ、
ライナノールの炎の剣を受け止めようと剣を動かす。  
その直後、二人の剣が鍔迫り合いを起こし、耳障りな音が鳴り響く。  
雷と炎、そしてカナメの気合で次々とカナメの体に付着していた氷を溶かしていく。
「まさか、こんな弱点があったなんて……」
「ヘッ!動揺してる場合か!」  
そう叫んだ後、カナメは自分の剣を上へと上げ、ライナノールを数歩後ろへとよろめかせる。  
それを一瞬見た後、思いっきり上空へと跳躍する。
「くらいな!これが……必殺必中!ライトニング・バスター・クラッシャーだ!」   
絶叫の直後、カナメは上げた両腕をフルパワーでライナノールに振り下ろす。  
その両腕に持っていた雷の剣は激しく彼女の肩に当たり、その直後その腕と胴が切り離される。  
そしてカナメが地上に両の足を付けた直後、彼女を胴切りにしていた。
(ボラン……キオ……。先に、逝ってるからね……)  
下半身と離れた上半身が地に付く直前、ライナノールがそう思っていた。
カナメはそう願わざるを得なかった。

 

「チッ……ライナノールが死んだか……俺自身もヤキが回ったようだな。」
「だったら死ぬか投降するか……どっちかにしてくれないか?
俺自身これから死のうとしている奴に何時までも付き合ってられねーからな。」  
舌打ちをするボランキオに対し、連続で槍を突き出すアランは焦りを感じていた。  
10年程前、傭兵になってから愛用し、大切にしてきていた自身の槍が
今ここで寿命がつこうとしていたのである。
「なろぉ……ノーコメントってか?なら!」  
素早く首筋を狙って槍を繰り出すものの、ボランキオの斧によって防がれる。  
しかし、その時のボランキオの表情が驚愕に変化した。  
自身の顎下を手で狙う構えにアランがなっていたのだ。  
当然槍を防いだ状態から1秒と経ってない一瞬の出来事のため、
ボランキオはリアクションを起こすことも許されず、アランの攻撃を許してしまう。  
その直後、体制を立て直しそうとするボランキオの首を取ろうとしたアランの攻撃を
モロに受けてしまっていた。
「ヴォルフガリオの旦那……すまないな……
ライナノール……そしてわが家族よ……後を追わせてもらう……」  
その言葉の直後、ボランキオは倒れた。
(すまないな。相棒……)
アランは自分の槍を犠牲にすることで、勝利を得たのだった。
それに対する弔いは、謝礼だけでなく謝罪をも添えることをアランは涙を流しながら
よしとしなかったのかもしれない。

 

ダナン攻防戦直後、その地を守っていた「ベルシス家」は、
自身の身を守るためにヴァルファに投降したのか、
ドルファン軍がついたころにはベルシス邸は蛻の殻であった。  
ヴァルファバラハリアン八騎将の残りは5人。
カナメ達の、そしてドルファン軍の勝利か敗北か……
その答えは未だ程遠い所に在るのであった。

 

 第5章へ続く


後書き  
お久しぶり……です。かなり遅くなりましたが、本編で言う所の「ダナン攻防戦」となる第4章、如何でしたか?
半年近くかかったため、かなり気合を入れて書かせて貰ったつもりです。  
主人公・カナメ君が何故か必殺技を持つようになってるし……(笑)  
よくよく考えると、みつめてナイトの必殺技って凄いのばっかりですよね。  
今回出たライナノールの「氷炎斬」から、馬を召喚(?)する「ホースウィップ」まで……  
だからカナメの必殺技・ライトニング・バスター・クラッシャーも凄いのにしようと思ったら……
雷を帯びた剣でただの縦切り。なんとなく情けないのは気のせいだと思いたいです。  

では、今回はこれにて。

(02/1/10)


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