生きる者達と死せる者達へ祝福を
第六章 傭兵会議 (糸蒟蒻さん・作)

 

「今年はくそあじぃ……ドルファンったってこんなに暑いのは反則だ……」
 ヤング大尉の一周忌から2週間。アランは望遠鏡を片手にうめいていた。
 周りでは水着姿の子供達やアベックなどが目立つ。
 金が無いからを理由に、カナメ・テツト兄弟に、アランがこのバイトを誘ったのが
一週間前だったりする。
「お前さ……煙突掃除の手伝いだとか、喫茶店やレストランのウェイターとか、
そー言うこと考えなかったわけ?」
「ぐ……だーけーどぉ……だーけーどーさー!今何時だぁ?午後3時30分だぜ?
この時間になっても涼しくならないんだぜ?俺様暑がりだからこれ程の暑さには絶えられん……」
(ばーか)  
ブツブツとぼやくアランに、カナメは心の中で一言呟く。
「後1時間と30分だ!アラン!我慢しろぉ!」
「おおおっ!」
「炎天下の暑さよりもお前らの友情の方が暑苦しいって……」
 弟と友人の言葉に、カナメは頭が痛そうに呟く。
テツトの背中には今にも炎が噴出しそうである。
「すみませーん!」
「あ、テディさん!」
「テディさん。すまん!アンタの存在が涼みを持ってきてくれている!」
「は?どういうことですか?」
「この馬鹿タッグがどの位暑苦しかったか……想像を絶するモンだと思います。」
「ああ!男の友情ですね?」
カナメの言葉に思わずテディは手を叩く。
「何かさりげなくバカにされてるような気がする。」
(そんな事より、テディさん何か水着が大胆だな……)
 アランと共に苦笑いしながらも、テツトはテディの姿を見て鼻の下を伸ばす。
「そんなことより、どうしたんですか?」
「あ、差し入れです!」
 アランの言葉に思い出したように片手に持っていた袋を差し出す。
 中には飲み物やミカンが入っていると思われるビン・カンが入っていた。
「職場の仲間と一緒に持ってきたんですが、余っちゃって……」
「そうですか。有難く頂きますよ。」
「いえ、それじゃあ。」
 笑顔で手を振り、テディは小走りで更衣室に走って行く。
「オラ!あーまでしてもらってまだ暑いと言うか?」
「いや……」
「……お前、どったの?」
「テディさんから貰った飲み物……テディさんから貰った飲み物……」  
テツトの言葉に、二人は溜息をつくしかなかった。

 

「んで、ヴェルゼ。俺達に用って何よ?」
 バイト終了後、カナメ達は同じ傭兵のヴェルゼ・ライラックから酒場で言いたい事があると言われ、
ついて来た。  酒場内には、他にも5人の傭兵がヴェルゼに呼び出されていた。
「あー……っと。その前に、クレアさん!お酒頂戴!お酒!」
「……お前、俺達に言いたいことがあったんじゃないか?」
 シリアス面から、一転。笑顔になる女性傭兵に、カナメは怒る。
「分かってる。みんな!これを見てくれ!」
 ヴェルゼの言葉に、傭兵たちはテーブルに置かれていた紙を覗く。
「これは……まさか!」
「そう。プリシラ王女が偽者。国王の兄は生きて、ヴァルファのリーダーをしている。
その他エトセトラエトセトラ。つまりは今の政治形態に不満を持ってる連中が最悪数十人規模で
活動している。……と思われる。」
「思われる?確実にじゃなくて?」
 ヴェルゼの言葉に、テツトは訝しげな表情になる。
「……ヴァルファのかく乱作戦の確率がある……か?」
「さすがドルファンにいる傭兵の中で一番頭がいいヤツだ。察しがいい。」
「だけどその確率は一番低いな。さっきお前さんが言ってたことがもっとも確率が高くてね。」
「で?私達に何をしろって?」
 カナメの言葉に、傭兵の1人でマリナ・ムラサワと呼ばれる女性がヴェルゼに聞く。
「ああ。アタシを含めた9人でこれについて調べた方がいいって思ったんだ。」
「確かに調べといた方がいいな。俺たちの進退問題だ。」
 ヴェルゼの一言にアランが同意を示す。
「……明日から調べるのもいいが、とりあえず現実問題が何か話し合ったほうがいいんじゃないか?」
「あ、そおか。」
「そおかじゃない。何の為に俺を呼んだんだ?」
「だってさ?アンタがいなきゃそういう活動も出来ないでしょ?」
 ヴェルゼの答えにカナメはため息を付いてしまう。
「あ、あの、メッセニ中佐とかに報告したほうがいいんじゃ……」
「いや、それはかえって危ない。もし、反乱を起こそうとしている連中がいたとしたら、軍にそういった
報告が入ったっていう情報は確実に入って、行動を慎重にさせて発見させづらいんだ。」
 割って入ったクレアに、カナメは答える。
「ヴェルゼ。アンタにもそれが言えるな。慎重に行動を起こしてほしい。」
「……分かってるって!そんなことより、現在の状況をまとめるんだろ?話を続けてちょうだい。」
「まず、プリシラ王女の事だな。以前、俺が言ってたことだが、現王妃は病弱で子供が産めない体 ……らしい。」
「つまり、王女さんそのものがいわゆる秘密裏の養子縁組を組まされた確立がある……か?」
「そうだ。ま、どっちにしても王女の性格からして、そのうち彼女を擁して……って連中が出てこないと
言えば嘘になるかもな。」
「それで、偽者だった場合は誰がその替え玉を用意したのかしら?エリータス卿?それともピクシス卿かしら?」
「ピクシス卿1人か、もしくは両方か、二つのうちどっちかと見て間違いないな。」
 傭兵・レナ・ファーリンクも積極的に話に参加する。そのレナにカナメは素早く、そして的確に答えを掲示する。
「国王の兄の件に関しちゃ、信憑性が高いかもな。もし復讐の為だったりすると……だけど。」
「ちょっと待て。」
 口が上手でないため、あまり話に参加せず、静観を決めざるを得なかった男の1人でレナの兄、
クラード・ファーリンクがカナメの一言にストップをかける。  他の二人、ラング・ヴェズ、ガイ・フェイナーツも
彼の行動に驚きを隠せない。
「つい2日前だが、シーエアーの教会にナイフやら剣やらが非合法で入ったってとある筋から手に入れたんで、
昨日探りを入れたんだ。」
「何だと?どういうことだ?」  
クラードの言葉に、最年長にあたるラングが驚いた声を上げる。
「ああ。俺もどういうことだと思って探ったんだよ。だけどその場所に入ろうとしたらシスターに立ち入り禁止だって
止められちまったんだ。」
「これはまた……」
「怪しいな。」
 クラードの言葉で、アランとガイも驚いた表情になる。
「暫くしてからまた探りを入れようと思ったら今日のこれだ。更にあの神父が怪しくなった。」
「うーん……これはアレかもな。」
「?アレってなんなの?」
 カナメの「アレ」に、マリナが聞く。
「教会の神父は実はヴァルファのゼールビス。」
「はぁ?」
「まっさかぁ!」
 カナメの一言にアランは素っ頓狂な声を上げ、レナはマリナと共に笑いを上げる。
「いや、カナメの言うことは最もかもしれんな。」
 笑いの渦の中、ラングが声を上げる。
「俺は傭兵稼業30年を越すが、キャリアが増せば増すほど情報網も大きくなるんだ。
ここ20数年の傭兵の状況をある程度覚えてるんだが……」
「おやっさん!もったいぶらずに教えてくれ!」
 ラングのわざとらしい言葉に、ガイがイライラしながら声を荒げる。
「まぁ、これからだ。さっき出たミハイル・ゼールビスってのがな。ここら辺じゃ有名なテロ屋さんだったって訳よ。
んで、色んな国の要人やらなんやらを殺しちまって、指名手配になったところを叔父のミーヒルビスに
拾われた……って訳よ。んで、その数年後にヴァルファを自ら除隊。どっかに行方をくらましちまったんだとよ。」
「それでドルファンに紛れ込んだ……か。どっちにしても憶測の域を越えてないよねぇ?」
 ラングの言葉に溜息と共にヴェルゼ。
「憶測に過ぎない以上、やっぱ軍部に報告するわけにゃいかんしな……」
「よし。とりあえずここにいる9人でそれぞれ独自に調査……って事だな。」
 カナメの言葉に残り8人が同時に頷く。
「カナメ。頼みがあるんだ。」
「何だ?ヴェルゼ。」
「ああ。アンタにあたし達を率いて欲しいんだ。」
「な……!」
 ヴェルゼの唐突な言葉にカナメは驚いた表情になる。
「冗談は顔だけにしてくれ。こういう仕事はラングの親父とかアンタだろ。」
「いや。その俺はヴェルゼに賛成だ。リーダーをやってくれ。頼む!」
「……だけど。」
「やってあげなさいな。」
「そうそう。男ならこういう仕事はピシッとしなきゃ!」
 渋るカナメにレナとマリナもヴェルゼ達の援護をする。
「……分かった。任せてくれ。」
「よし。」
「頼むぜ、リーダー。」
 笑顔で返事をしたカナメにクラード、ガイはカナメの肩を叩く。
「具体的な方針はまだ決めてないけど……状況が掴めたら俺に話してくれ。その都度みんなに口頭、
もしくは書面で伝える。今日のところはこれで終わり……に」
「よし、今日は祝い酒だ!クレアさーん!お酒!お酒!カナ。アンタも飲むっしょ?」
「……俺は下戸だ。酒は飲めん。」
「いいじゃない。今日ぐらい飲んだって。」
 ヴェルゼの言葉に拒否をするも、クレアが彼女に賛同の意を示す。
「飲ませないほうがいいですよ。兄貴、飲んだら脱ぐから。」
「ブッ!」
 テツトの一言に、先ほどヴェルゼが飲んでいた酒瓶に口をつけていたガイが噴出す。
「脱ぐって、テツト。それ本当?」
「うん。そんとき思いっきりぶっ飛ばして気絶させたけど。」
 ガイやラング達の代わりに聞いたレナに真面目な顔でテツト。
「つーことらしいんで、俺はコーヒーをお願いします。……クレアさんの手で入れた熱いコーヒーをね。」
「はいはい。分かりました。」
 カナメの言葉に顔を少し赤らめながらもクレアはコーヒーメーカーに向かった。
 彼の後ろでは、その口説き文句にレナとマリナとヴェルゼが真っ赤になっていた。

 

次の日
「ぐあぁぁぁぁ〜〜!やっぱりあーーーーーーづーーーーーーいーーーーーーーー!」
「頭がガンガンするーーーーーーーーー!いーーーーーーたーーーーーーいーーーーーー!二日酔い……だぁぁぁぁぁ!」
「頭が痛いのは俺のほうだ……」
 バイト先で叫んでいたテツトとアランに、カナメは頭を完全に痛めていた。

 

第7章へ続く


後書き
はい。糸蒟蒻です。
今回はすんなり書けました。おもいっきし。
オリジナルキャラが増えたのにこんなにスムーズに書けたのは初めてです。
つーこってオリジナルキャラを。

まず、ヴェルゼ・ライラック。カナメより3つ年上の24歳(序章時)
元・海賊で、荒々しい事をやっていたが、父親が病気で死んだために陸に上がって傭兵に……
とけっこう王道的な(?)設定です。
やはり元・海賊のため、使用武器は曲刀で、性格はジーン・ペトロモーラをベースにしています。

次に、ラング・ヴェズ。傭兵暦が正確には37年の55歳(やはり序章時)
長年傭兵をやっていただけあって、体つきがごつく、身長も192CMと高い。
傭兵以外の女性に免疫が無い方で、結婚はしていません。色恋沙汰を楽しむよりも酒を飲んで
いるほうが楽しいという典型的なオヤジ(?)です
 使用武器は斧だと思われるかもしれませんが(そう思うのは私だけ?)、テツト同様大剣を使用。

そしてマリナ・ムラサワ(村沢真理奈)。
カワギシ兄弟同様、東洋出身で、カナメと同い年の21歳(序章時)
性格的なイメージには「テニスの王子様」の河村先輩と思ってくれればありがたいです。
残りのキャラは次回ということで。

(02/3/29)


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