禁呪 第二章・3


翌日、疲れた体を休めた一行は、アッサラームから船に乗り、再びネクロゴンドの地に降り立った。
「よーし、がんばろ〜う!!」
ランが拳を振り上げる。それがその日の戦いの幕開けの合図となった……。
 


「ギャオーム!!」
「ハンギャァァ〜!!」
「キシャーー!!」
魔物達が襲い来る。
巨体に見合った怪力で棍棒の一撃を繰り出すトロル、様々な呪文を素早く使いこなす踊る宝石、
死の呪文を操るホロゴースト、六本の手を持つ骸骨の化け物地獄の騎士……
そこは魔物の巣窟だった。ネクロゴンドの岩山に存在する大洞窟…ここを抜けた先に
小さなほこらがあり、そこで
精霊神ルビスの使いが不死鳥ラーミアを甦らせるのに必要な
六つの宝玉(オーブ)の1つ、シルバーオーブを守り、勇者の訪れを待っているという。
つまり、そこへ行くにはどうしてもこの洞窟を通らなければならないのだ。
魔物は、内部へ進めば進むほど強力に、そして多くなっていった。

「たぁっ!!」
「バギマ!!」
「あちょー!とりゃー!おりゃー!!」
「メラミ!!」
四人は進んだ。自分の持てる力を最大限に発揮し、それでも途中でばてないように
体力の配分に気を使い、奥へ、奥へ、進み続けた。
だが、とうとう体力の限界に達し、もう何度目かも分からなくなった戦闘の後、その場に
崩れ落ちるように座り込んだ。
「はぁ、はぁ…」
「ふい〜っ、つ、つかれたよぉ〜」
「この洞窟、何処まで続くのでしょうか……」
四人は息を切らしながら辺りを見回した。自分達が倒した魔物達の屍が転がり、
天井から滴る雫があちこちに小さな水たまりを作っている。
遠くから風の音にも似た魔物のうなり声が聞こえ、アスル達に一時の休息も許さない、と
告げているかのようだった。
エレナがベホマラーを唱え、四人は再び立ち上がる。
ランはもう少し休みたそうな顔をしていたが珍しく口には出さず、先頭に立って歩き出した。
この洞窟を抜ける目的の重要さを理解しているのだろう。
 

「……!!」
ランの足が突然止まる。
「どうしたの?ラン…」
エレナが尋ねる。
「しっ!……来るよ、魔物が…しかもたくさん!!」
武闘家であるランはその手の気配に人一倍敏感なのだ。
ゆえに、アスル達はランの言葉が嘘であって欲しいと願う余地もなく各々の武器を取り、身構えた。
おびただしい魔物の気配は、アスルやレオン、エレナにさえ感じられるほど近づいてきた。
「来た!!」
剣をしっかりと持ち直し、アスルはその先をキッと見据えた。

「ぐぎょぎゃぁぁぁぁ〜〜!!!」
想像を絶する数だった。ライオンヘッドが、ガメゴンロードが、踊る宝石が、ミニデーモンが、
トロル、ホロゴーストが、とにかくこの洞窟に巣くうありとあらゆる魔物達が、一斉に襲ってきたのだ。
「うわぁぁっ!なんでこんなに多いの〜〜!?」
ランもさすがにビックリしているようだ。何と言っても半端な数じゃない。
「み、みんな、頑張ってくれ!!」
アスルはそう叫ぶと、一匹のトロルに斬りかかった。
「イオラ!!」
「ピオリム!」
レオンは爆発の攻撃呪文を放ち、エレナは仲間たちを補佐する呪文を唱える。
激しい攻防戦が始まった。


ランの拳が唸る。トロルの棍棒が振り下ろされる。
ホロゴーストのザラキに耳をふさぎつつエレナがマホトーンでそれを封じる。
ガメゴンロード達の高い守備力をレオンがルカナンで低下させ、
アスルがその首を剣で切り落とす。

ランのキック、地獄の騎士の唸るサーベル。フロストギズモのはく吹雪を
エレナがフバーハで防ぎ、レオンのベギラゴンはライオンヘッドを包んで燃え上がる。
アスルのライデインも負けてはいない。


戦いは続いた。長く激しい戦いだった。アスル達もかなり疲労していたが、
魔物達の数も三分の一以下に減っていた。
「はー、はー、…も、もーちっとだね!」
ランが息を切らしながらも微笑む。
「がんばれ!油断するんじゃないぞ!!」
アスルの声もかなりかすれていた。
その時、一匹の踊る宝石がトロルの屍の影からぴょっこりと飛び出した。
「ウケケケケ…」
「ん?あっ、そんなところにまだかくれてやがったのか!よーし、一発でしとめちゃる!!」
ランはそれを見つけると間髪入れずに殴りかかった。だが……
「ラン!!危ない、逃げて!!」
エレナが叫んだときには既に遅かった。
「!!」
踊る宝石の目がきらりと光る。
「メダパニィ!!」
その裂けた口からは、確かにそんな言葉が発せられた。

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