ウサギのぴょん子恋物語
『ライバルはカタツムリでぴょん!』

第1章〜そして芽生えた殺意〜


──ぴぽぴぽぽぽぽ♪

ニンジン色の電話機のボタンをプッシュする。
目をつぶっていても間違えずに押せる電話番号……イヌ夫の家のナンバー。
ホントは「短縮」に入ってるからわざわざプッシュしなくてもいいんだけど、
今のあたしは乙女チックな気分だからそんな無粋なことはしないの。

──トゥルルトゥルル……

呼び出し音が一つ鳴る度にあたしの心臓は高鳴りを増していく……
ああ……イヌ夫、早く出て!この胸はもう、破裂寸前だわ!!

──カチャッ

きゃっ!出た……!
「ハ、ハヒ、もひもひ……犬田でひゅ……」
「くそじじ〜っ!!!」

──がちゃん!!

「はあ、はあ……な、なんでイヌ夫のおじいさんが出るのよ!」
まったく、怒りのあまり電話切っちゃったわ!!また後でかけ直しましょ!


──トゥルルトゥルル……カチャッ

「はい……犬田……です」
 なんかおびえてるようだけど、でもこの声は……!
「あ、イヌ夫!?あたし、ぴょん子よ!」
「ああ、ぴょん子かぁ。なんだ、よかった……」
ほっと息をつき、イヌ夫の声がいつもののんびりしたものに戻る。
「どうしたの?何かあったの、イヌ夫」
「え、うん……実はさっきイタズラ電話があってね。おじいちゃんが出たらいきなり
“くそじじ〜っ!!”ってすごい声で叫んで切っちゃったんだって。
おじいちゃん、腰抜かしちゃって……今寝てるんだ……」
「まあ……ひどいわね」
 フン、乙女チックな気分をぶちこわしたのが悪いのよっ!
「それより、何? ぴょん子」
「あ、ええ……。ねぇイヌ夫、今度の日曜、ヒマ?」
うふふふ……恋する乙女は行動あるのみ!積極的にアプローチしなきゃ、恋は勝ち取れないわ!
だから、とりあえず今回はピクニックに誘っちゃおうとおもってるの ♪きゃっ☆
「え……えーっと……あー、ごめん。その日はダメだよ。
エスカルちゃんにピクニックに行こうって誘われたんだ」
何……?

──ピシッ……

握りしめた受話器にヒビが入る。エスカル……ですって!?
 その名前に聞き覚えがないわけではなかった。けれど一応確認をとるためにあたしは、
常に携帯している「殺すリスト」を取り出した。これにはネ子やサル美はもちろんのこと、
イヌ夫に想いを寄せている奴ら、つまりあたしのライバル全員の名前と顔写真を載せてあるの。
「あったわ!」

〔カタツムリのエスカル〕

やっぱりこいつよ!!こいつったら雌雄同体のくせにイヌ夫に惚れてやがるのよ!!
ゆ、許せないわ……陸棲の巻き貝風情があたしと同じ事を考えるなんて……
どこぞのアライグマともベルサイユのバラともつかない名前のくせにイヌ夫にモーションかけるだなんてっ!!
……あたしはそれまでサル美だった「殺すリスト」の最初のページにエスカルを入れ替えた。

(邪魔してやる……絶対に邪魔してやる……)

「そ、そうなんだぁ、いいなー、あたしもいきたいなぁ……」
「あ、なら一緒にいこうか?」
ふふっ、読み通りの反応だわ……
「えっ、でもいいのかなぁ……」
「いいとおもうけど……聞いてみてあげるよ。エスカルちゃんに電話して」
「(げっ!!)い、いいわよぉ、自分で聞くから!!」
「そ、そう?うん……じゃあ」
「ウフッ、バイバイ!イヌ夫♪」

──カチャン

ふう……危ない危ない……たとえラブコールじゃなくても、
イヌ夫がエスカルん家に電話するなんて、許せないもの!


さて、あいつに電話かけなきゃ。でも、すんなりオッケーしてくれるかしら……
何せあいつはイヌ夫が好きなんですもの。あたしなら、イヌ夫と一羽と一匹っきりの
デートを邪魔されそうになったら、そいつをぶっ殺してでも止めさせるわ。
……フフ、まあいい。断られたらこっそり尾行するまでよ!


「は〜い、角田瀬(つのだせ)です」
「あ、あたし、兎野ぴょん子です。エスカルさんはいらっしゃいますか?」
「アタシだけど……どうしたのン、ぴょん子ちゃん?連絡網?」
あたしとエスカルは、知り合いではあるけど、そんなに親交はない。
あたしからの電話を不思議に思うのは当たり前だ。
「ううん。ねえ、今度の日曜イヌ夫とピクニックに行くんですってね」
「え?ええ、そうよン。今から楽しみだわ〜ン♪……でも、それがどうしたのン?」
「あたしも、その日すごーく暇なの。で、一緒に行きたいなーなんて」
……フン、断ることくらい分かってるわよ、くそカタツムリ。
でもまあ、一応聞いてやろうかなぁって……
「ええ、いいわよン」
「は!?」
「やっぱり人数は多い方が楽しいものねン ♪うふっ」
ま、まさかこんなにあっさりと!?
……ふっ、どうやらこいつ、あたしがライバルだって気づいてないようね……
うふふっ、ラッキー☆ 苦労せずついていけるわぁ〜♪
「午前十時にムッキーマウス像前に集合よン。じゃ、日曜日にね〜ン」
「ええ。わかったわ」
あたしはエスカルから集合場所と時間を聞き出して電話を切った。

ふふふ……エスカルを蹴落としてイヌ夫のハートをゲットしてやるわ……
あたしの心は野望で熱く燃えていた……

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