ウサギのぴょん子恋物語
『ライバルはカタツムリでぴょん!』

第2章〜そして始まるショータイム〜


──ピピピピ……

目覚まし時計が鳴り響く。
ああ……起きなきゃ。でも、頭が重いわ……。
ゆうべ計画を練ってて、夜更かししたのがいけなかったのかしら。
けど、それにしてもこのねっとり重い空気は何?まるで雨の日みたい……
なんか、ザーザーって音も聞こえるし……って

「雨やん!!」

あたしは飛び起きて窓の外を見た。土砂降りだった。
庭のニンジン畑に水たまりが出来て、まるで池のようになっている。
「な、なんてことなの……」
これじゃあピクニックどころじゃないじゃない!! せっかくエスカルにニンジンサンドを
食わせて、赤いフンを出させ、(ピーマンサンドを食わせて緑のフン、てのも悪くないわね)
イヌ夫の前で恥かかせてやろうとか、うっかりつまずいたフリをして、殻を踏んづけて
壊してやろうとか、(殻が壊れたカタツムリは十中八九死に至るそうよ♪)色々考えてたのに!!
……はあ、この天気じゃ中止は確実ね。起きる必要も無くなったわ……
あたしは再び布団をかぶった。深いため息を一つついて……


「ぴょん子!ぴょん子、電話よ!!」
「ん〜……」
ママの声に起こされた。時計を見ると10時半。
……ホントなら10時に待ち合わせだったのよね。
でも、雨はやんでないようだし、関係ないわよね……
電話、誰からかしら……
「はい……」
ボーっとする頭を抱えながら、階下に降りたあたしは、ママから受話器を受け取った。
(この間ヒビ入っちゃったから、セロテープで巻いてあるわ。)
「あっ、ぴょん子!?どうしたんだい?なかなか来ないから心配したんだよ!」
「!!」
いっぺんで目が覚めた。だって……イヌ夫の声だったんだもの!!
「イ、イヌ夫!?来ないからって……ど、どうして!?だって、こんな土砂降り……」
「あっ、もしもしぴょん子ちゃん?」
げっ、いきなりエスカルの声に変わった!!
……ってことは、今エスカルとイヌ夫は一緒にいるってこと!?がっが〜んっ!!
「今“ムッキーマウス像”前の公衆電話からかけてるの……30分経っても
ぴょん子ちゃんが来ないから……どうしたのン?病気?」
何言ってるのこいつ……屋内スポットが行き先ならともかく、ピクニックへ行く
予定だったのよ!?こんなザーザーぶりなのに、行けるわけ無いじゃないの!!
あ、ちなみに『ムッキーマウス像前』ってのは、この動物村で最もポピュラーな待ち合わせ場所なの。
筋肉隆々のネズミの巨大な銅像は、目立つからわかりやすいもの。
「あ、雨降ってるから中止だと思ってたんだけど……」
「ええっ!?何言ってるのン?雨降ってるからいいんじゃない!
ああ、絶好のピクニック日和だわぁ〜ン♪」
何ぃ!!そうだ、そうだったわ……こいつカタツムリだもの、『雨イコールいい天気』なのよ!!
う、うかつだったぁぁぁ〜っ!!
「イヌ夫さんはちゃんと時間通りに来たわよン?」
イヌ夫……ど、どうして……。
「うん、まあ、たまには雨の日のピクニックもいいんじゃないかなと思って」
受話器の向こうから声が聞こえた。
……ああ、イヌ夫……あなたは“ふるふるして水気をとっ払う”能力を持った『犬』ですものね。
でも、でもあたしはウサギなの!!
とっても湿気に弱い、濡れるのが大嫌いな『兎』なのよぉぉぉ〜っ!!
「どうするのン?ぴょん子ちゃん。今から来る?」
エスカルが尋ねてきた。ど、どうすればいいの!……でも、でもやっぱり……っ!!
「……行くわ」
「あらそう、じゃ、待ってるから急いで来てねン」
イヌ夫とエスカルを2匹っきりにしてたまるものですか!!

あたしは急いで身支度をした。
そして長い耳もすっぽり覆い隠す、マイ雨合羽を着込むと家を飛び出した。


「やあ、ぴょん子」
「はァい、ぴょん子ちゃん」
二匹はムッキーマウス像の前にいた。イヌ夫は一応合羽を着て、長靴を履いていたけど、
やっぱり激しい雨ですもの、顔やしっぽがかなり濡れてるわ。
それでも平気な顔で舌を出して、おきまりの体温調節をしているところはさすがは犬よね。
エスカルの方は、合羽も着てなきゃ傘もさしてない。
雨をもろに全身にうけていながらにこにこしている。チッ、所詮カタツムリね。
「さぁ、行きましょうン♪」
「え、ええ……」
はぁ……体がだるいわ。合羽を通して冷たい雨が、体を伝っていく感触が分かる……
うう、気持ち悪い。
でも、でも……イヌ夫がそばにいるもの……それだけで気分はパラダイスよ〜♪
ウフ…… ウフフフ……エヘラエヘラ……アハハ……アハアハ………

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