エレナにライバル出現!?
能天気な遊び人・マリリン(2)


「……」
エレナは次第に胸の鼓動が不規則な音を刻み始めるのを感じていた。
マリリンのあまりにも突然の告白にしばらく思考が停止したものの、
時間がたつうちに冷静さが戻ってくる。しかし、平常心は戻らない。
アスルとマリリンから視線をはずし、うつむく。

ランとレオンは、そんなエレナとアスルの様子を交互に見比べておろおろするばかりだった。
しかしそんな重い空気をまったく解さないマリリンは少し頬を膨らませただけで、
落ち込む様子もなく二の句を継いだ。
「む〜っ、つまんないの。それじゃあ、デートしようよ♪」
「えっ、デート!?」
「いいでしょ?明日一日だけでもいいからぁ〜」
甘い声と上目遣いでねだり、腕に絡み付いてくる。その豊満な胸の感触が腕を通して伝わる。
普通の男性ならイチコロだろうが、アスルには迷惑でしかなかった。
なぜなら―――アスルには既に想い人がいるのだ。
しかし、良く言えば優しく、悪く言えば優柔不断なアスルには、先の告白を断ったこともあり、
無下に突っぱねることはできない。その想い人と『恋人同士』という関係が成り立っていれば、
それを理由に断ることができただろう。しかし残念なことに、今の関係は『仲間』以上でも以下でもない。
「…明日、だけなら…」
アスルはしぶしぶ、そうつぶやいた。
「わぁい!!やったぁ♪」
マリリンはぱっと顔を輝かせて、全身で喜びを表現するかのように飛び跳ねる。
一方のアスルは、やはり仲間たちの方を顧みることができず、苦い顔をして目を伏せていた。


四人とマリリンは同じ宿に泊まることになった。
夜、マリリンは一人部屋で早々に眠り込み、アスルとレオン、ランとエレナもそれぞれの部屋で
床についた。しかし、夢の世界へはなかなかたどり着けない。

「エレナ…」
ランが声をひそめて問い掛ける。
「何、ラン?」
ささやくような声が返ってきた。
「…やっぱり、起きてたんだ」
「うん、なんだか眠れなくて。ランもなの?」
「そりゃそうだよ!あたしは…」
言いかけて、口をつぐむ。

ランは、エレナがアスルを想っていることを知っている。
そして、アスルもまたエレナを想っていることを。また、レオンも同様だった。
しかし、傍から見れば明白であるにもかかわらず、当のアスルとエレナはお互いの気持ちに
気づいておらず、旅に支障をきたさないように良き仲間でいようとしている。
そんなもどかしい二人にランは、それぞれの想いを伝えて接近させようとしたことがある。
しかし、レオンに止められた。
『それは、わたしたちが口出しすることではないのですよ。二人が自ら伝えたいと
思う時まで、気づかない振りをして見守っていましょう』
微笑みながらレオンは言った。最初は不服に思っていたランだったが、やがてそれもなかなか
楽しいということに気づき、レオンと共に二人に口に出さないエールを(からかいながらも)
送り続けていたのだった。しかし、あまりにも急な、マリリンのアスルへの接近。
エレナの気持ちを思うと、ランとて気が気でなかった。

「どうしたの、ラン…」
「…ううん。なんでもない。おやすみ!!」
ランはそう言って、布団を頭までかぶる。
―――アスルのアホ!ちゃんと断れよなっ!!―――
行き場のないもやもやとした気持ちをとりあえずアスルにぶつけ、ランは無理やり目をつぶった。
「…おやすみ…ラン」
エレナは布団の塊に小さくつぶやくと、体勢を仰向けにして天井をぼうっと見つめはじめた。
その天井がスクリーンとなり、脳裏に浮かぶ光景を映した。
アスルに抱きつき、腕を絡めるマリリン。
アスルの表情は見えなかった――いや、見ることができなかったけれど。
『アスル君のこと好きになっちゃった!』
『恋人になって!』『デートしようよ♪』
リフレインされるマリリンの言葉に思わず耳をふさぎ、エレナははっとする。
―――わたし…やっぱりアスルさんを…―――
しかし、自分の想いを再確認したところでどうしようもなかった。
マリリンもエレナにとって大切な友人だ。デートをあんなに喜んでいたマリリンに、
楽しい一日を過ごしてもらいたいという気持ちも嘘ではない。
エレナは大きなため息をつくと、ランと同じように布団を頭までかぶり、無理やり目を閉じた。

翌朝早く、アスルとマリリンは連れ立って出かけた。
ランとレオン、そしてエレナが二人を見送ったのだが…
「行ってらっしゃい!楽しんできてくださいね」
膨れっ面でアスルを睨んでいたラン、不安そうな表情をしていたレオン。
エレナは―――笑って手を振り、二人を見送った。
―――エレナ…―――
アスルはその時、なんともいえない痛みが胸に走るのを覚えた。
「でね、アスル君〜」
腕にしがみつき、体を密着させたマリリンが話す言葉もアスルの耳には入らなかった。
―――…やっぱり、エレナにとってぼくは…ただの仲間でしかないんだろうな…―――
はぁ…と、大きなため息が漏れる。
「あ〜っ、ひどーい!!ため息なんかつくなんてぇ!!せっかくのデートなのにぃ!」
マリリンが頬を膨らませて抗議すると、アスルはやっと我に帰った。
「…あっ!す、すみません。…そ、それでどこに行くんですか!?」
慌ててごまかすようにアスルがたずねると、マリリンはすぐに笑顔に戻って答えた。
「うふふっ、アタシの大好きなト・コ・ロ♪」
「…?」


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