エレナにライバル出現!?
能天気な遊び人・マリリン(6)

「じゃぁね、みんな!気を付けてねぇ〜」
街を出る四人をマリリンは見送った。能天気に笑いながら手を振って。
「はい、ありがとうございます!」
「マリリンさんも気をつけてくださいね」
アスルとエレナが頭を下げる。
「マリリン…あの、さっきは…ゴメン」
ランが目をそらしながら、ばつが悪そうに呟く。
「ううん、気にしない気にしない!ランちゃんも大変よねぇ」
マリリンはしゃがみこんでランの頭を撫でながら意味深に微笑む。
「え…」
驚いたように目を丸くするラン。
「…マリリンさん」
レオンは悟った。マリリンはアスルとエレナの想いを知ったのだと。
それなら意外なほどあっさり引き下がったのも納得がいく。
一見横恋慕も厭わなさそうなマリリンだが、意外に分別はあるようだ。
あるいはそれも、豊富な恋愛経験によるものなのかもしれない。

「さぁ、行きましょう」
レオンは笑顔でアスルに促す。
「うん!それじゃ…」
「ガンバって!応援してるから〜」
夜の帳が降り始めた空の下、四つの影が地平線の向こうに消えるまでマリリンは手を振り続けた。
「…さて、と」
くるりときびすを返す。
「どっかに素敵な人、いないかなぁ〜…」


「アスルさん」
数日後、アスル一行は新たな町に到着した。そこで買出しを担当したエレナは、
ランとレオンがいない時を見計らい、アスルに声をかけた。
「何?エレナ」
首を傾げるアスル。手を背中に回したエレナはなにやら顔を紅くし、もじもじしている。
「あ、あの…その…こ、これ…よかったら」
おずおずと背中に隠していたものを差し出す。
綺麗に包装された長方形の箱。青いリボンがかかっており、誰の目にもプレゼントとだ分かる。
アスルの心臓が思わず大きな音を立てた。
「えっ…これ、ぼくに…!?」
「……はい…気に入ってもらえるか、わかりませんけど…」
エレナはその包みだけをアスルの目の前に差し出し、俯いている。
アスルの顔も見る間に紅潮してゆく。
「あ、ありがとう…」
アスルはどぎまぎしながらそれを受け取る。
「開けても、いい?」
エレナがこくりと頷いたのを見て、少し震える指先でリボンをほどくアスル。
丁寧に包装紙を取り外し、厚紙製の箱のフタをゆっくりと持ち上げると―――
「あ…」
そこには、今アスルが使っているのと同じ橙色をした、真新しい皮製の手袋が収められていた。
「アスルさんの手袋、大分ぼろぼろになってきてるみたいですし…
そろそろ新しいのがあったらいいかな、って」
エレナは紅くなったままそう言って、また俯いてしまう。
「わぁ…ありがとうエレナ!!」
アスルが顔を輝かせて喜んだのを見て、エレナも嬉しそうに微笑んだ。
「よかった…!」
「あ、でもこれ…高かったんじゃ?それに、誕生日でもないのにどうして…」
アスルは気遣いのつもりで言ったのだが、その言葉にエレナの表情が曇ってしまう。
「……やっぱり、ご迷惑でしたか?」
「そ、そんなことない!!嬉しい、すごく嬉しいんだよ!?ちょうど手袋を新調したいって
思ってたとこだったし…」
アスルが大慌てでフォローすると、エレナは再び笑顔になる。
「ありがとうございます♪お金のことは大丈夫ですよ、お小遣いの範囲ですから」
アスルたちは基本的に所持金は四人で共有しているのだが、「少しは自分で好きに使えるお金も
なくちゃつまんないよ」とのランの意見から、小遣い代わりにいくらかのゴールドをそれぞれが
貰うようになった。それで自分が欲しいものを買うのが長く厳しい旅の息抜きにもなり、ランの
ワガママもたまには役に立つものだとアスルは内心思ったものだ。
エレナはそのわずかな小遣いの中から更にわずかずつ、万一の備えとして貯金をしていたのだった。
「エレナ…」
「それに……えっと…」
「え?」
「あ、アスルさんにはいつもお世話になってますし、お礼がしたかったんです!えへへ…」
エレナは一気にそう言って、何かをごまかすかのように笑った。
「そ、そんな!ぼくの方こそいつもエレナに助けられてばかりで…!」
「いえ、そんなことありません!アスルさんがいてくださるから…」

二人のいつ果てるとも知れない押し問答を眺めながら、いつの間にか戻ってきていたランは
大きなため息をついた。
「あーもう、相変わらずじれったいなぁ…」
その隣でレオンは可笑しそうに笑っていた。
「でも、少しは前進したんじゃないですか?エレナにしては、頑張りましたよ」
「ん、まぁね。いきなり告白とまではいかないよね。ちょっとだけでも行動を起こしたことは
褒めてあげますか」
小さなランの大人びた言動に、レオンは再び失笑せずにはいられなかった。
「しかし、エレナがああいう行動に出たのはやはりマリリンさんの影響ですかね」
「そだね。ハチャメチャな奴だったけど…ちょっとは役に立ってくれたってことかな」
ランはそう呟いて空を見上げ、能天気な笑顔を思い描いた。
「また会えたらいいな!」

なんでもない日。エレナのアスルへのプレゼント。
それは自分の気持ちを自覚したエレナの、現段階精一杯の決意表明―――



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