ウサギのぴょん子恋物語
『ライバルはカタツムリでぴょん!』

第3章〜そして訪れる危機〜


……イライライライライライラ

「あ〜気持ちいいわぁ〜ン♪ やっぱ雨はいいわよねぇ〜ン」

……イライライライライラ

「アタシお弁当いっぱい作ってきたから安心してね、ぴょん子ちゃん♪」

……イライライライライライライライラ!!

「ね、ねえ、エスカルさん? もうちょっと……早く歩かない?」
あたしはわき上がる苛立ちを押さえながら言った。
……あたし、露骨に突っかかってくる奴(今のところはネ子さんだけね)以外の前では、
本性は見せない主義なの。ホントは叫びたいわよ……
『このくそカタツムリが!!のろいんだよ!! さっさとあるきやがれボケェ!!』って。
だって! 遅いんだものこいつ! もう1時間はたつのに、後ろを振り向くと
ムッキーマウス像の筋肉のスジまでくっきり見える距離しか進んでないのよ!?
「え? でもアタシ、普通に歩いてるンだけど?」
「あっはっは、エスカルちゃん、カタツムリだもんね」
イヌ夫! さわやかに笑って納得しないでよォ〜!!
これじゃあ、いつ目的地の“きのこの山”に着くか分からないわ!! あたしはさっきから
頭がガンガンしてるのに……早く終わらせて、一刻も早く帰りたいのにぃぃぃ〜っ!!
「でも、このままじゃ時間かかっちゃうよね……よぉし!」
え?イヌ夫、何をする気なのかしら……って えええっ!!

「あらン♪イヌ夫さん、ありがとン♪」
ふんがおえええええぇぇっっ! イヌ夫が……
イヌ夫がエスカルをつまんで……前足の平に乗せたぁぁぁぁ!
「い、イヌ夫っ!!あたしがやるわ!!」
あたしは即座にイヌ夫からエスカルを引き剥がした。
「え?そう?じゃあ……」
じょーだんじゃないわ! イヌ夫に触れていいのはあたしだけなんだから!
「まあ……ぴょん子ちゃんの肉球ってピンク色で可愛いのねぇ♪」
……とは言ったものの……ベチョベチョに濡れたカタツムリが、
前足の上をはいずり回る感触は、言いようもなく気持ち悪い…… ひぃぃぃ……
で、でもこれも愛の為よ!ああ……あたしってなんて健気な女の子なのっ!!


「はぁ、やっと着いたね!きのこの山」
「ふふっ、至る所に水たまりが出来てて素敵ねン♪」
「ウふふふ……えへあは……」
あたしの意識は、既にモーローとしていた。合羽を着ていても、湿気のせいで
毛はじっとりとしめっている。その上、前足にはカタツムリがはりついて……。
あら? 川の向こうで、死んだひいおばあちゃんが手を振ってるわ……
ウフフ……あそこへ行けば、楽になれるかしら……。

「ぴょん子? どうしたんだい? ボーっとしちゃって……」
ハッ! いけない、あたしったら! 危うく三途の川を渡るところだったわ!
そうよ! 死んでたまるものですか! イヌ夫とハッピーエンドを迎えるまでは!
「さぁ、早速お弁当食べましょうン」
エスカルが言うと、イヌ夫はよだれを垂らして賛成した。あたしもうなづくと、
エスカルはあたしの前足から降りて、イヌ夫に持たせていたバスケットに歩み寄った。
くそう……ホントはあたしの手作り弁当を、イヌ夫に食べさせる予定だったのに。
でも作る時間は無かったものね……ああくやしいっ!

──パカッ

「うわぁ、美味しそうなサンドイッチ!」
イヌ夫がバスケットの中を見て歓声を上げる。確かにそこには、見事な
サンドイッチがびっちりつまっていた……でも……でもこれ…
しめっとるやん!!
バスケットの間に雨が染み入ったんだわ…… 
そりゃそうよね、こんな雨の中、防水加工もせずに下げてたんだから。
でも、これを食えというの!? ミルクならともかく、雨水に濡れた
ベチョベチョのパンなんて普通食べれる?
「ちょっと濡れてるけど、まあ食べられないことはないわよねン。さ、食べて食べてン♪」
ちょっとじゃねぇぇ〜っ!
「うん、いっただきまーす!……んぐ、んぐ……うん、おいしいよ! これはカツサンドだねっ」
イ、イヌ夫……あなたは平気なの? そんなぁ……
「中身は色々あるから、ドンドン食べてねン。ほら、ぴょん子ちゃんも食べてよン。
ニンジンサンドもあるンだから♪」
くうう……イヌ夫が食べてるのに、あたしが食べないわけにはいかないじゃない……!!
えーい、ままよっ!
あたしは、サンドイッチを一つひっつかんで口に入れた。
パンがぐちゅぐちゅとイヤな音をたてる……雨水が絞りだされ、口の中に広がる……
「どう? それは何サンドかしらン?」
「う゛っ!!」
こ……これは……ねっとりとしたこの舌触り……
「な……納豆サンドォォ!?」
ベチョベチョのパンと、ニチャニチャの納豆が織りなすハーモニー……。
エヘエヘ……も……もう……ダメ……
「ぴょん子!?」
「ぴ、ぴょん子ちゃん!!どうしたのン!?」

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