ウサギのぴょん子恋物語
『ライバルはカタツムリでぴょん!』

最終章〜そして生まれる奇妙なトライアングル〜


あら……あれは……ちっちゃいころのあたし?
そうよ、幼稚園の学芸会でウサギのダンスを踊ったときだわ! ウフフ……かーわいー。
あっ、こっちは小1の運動会だわ……ウサギ跳びリレーで1位を取ったのよね♪
あっちは小2の時の音楽会……フフッ、みんなウ●ーン少年合唱団のごとく左右に揺れてるわ……
まぁ、これは小3のクリスマス会で、ニンジンケーキを丸飲みした時?
……ウフフ……これが人生走馬灯モードってヤツ? あ、でもあたしウサギだから“兎生”かしら?
アハハ……そんなことどうでもいいわよねぇ……
アレッ? まってよ、これが見えるって事は……あたしは死ぬの!?
そ、そんなぁ〜っ! いや、いやよぉぉ〜!!
まだイヌ夫とキスもしてないのにぃ〜っ!!
それにあたしが死んだらイヌ夫が……イヌ夫が、他のヤツにとられちゃう……
イヤイヤ!!絶対にいやぁぁぁ〜っっ!!!


「ハッ!!」
「あっ、ぴょん子! 気がついたのかい!?」
え……イヌ……夫……?
「ああぴょん子ちゃん! よかったぁ!」
「……!!」
目の前に、カタツムリのツノがにゅっと現れたのにおどろいて、あたしは慌てて跳ね起きた。
「ぐぎゃっ!!」
とたんに激しい頭痛があたしを襲う。
「あ、ダメよ!まだ安静にしてないと」
白いシーツ、白いベッド、薬のにおい……ここは……病院?
「びっくりしたよ、いきなり倒れるんだもん。ごめんね、ぴょん子。
君が、雨大嫌いだって事すっかり忘れてたよ……」
そっか……あたし、倒れたんだ。 う゛〜、頭がガンガンする……のどが痛くて声も出ない。
でも、とりあえず死なずにはすんだようね。
ああっ、ありがとうイヌ夫! あなたへの愛が、あたしをこの世につなぎ止めたのよ!!
「……ぴょん子ちゃん」
ケッ、こいつさえいなければいいムードになれたのに……
「ごめんねぴょん子ちゃん、アタシ……あなたの気持ち、知らなくて」
「……!?」
ま、まずい! あたしがイヌ夫のこと好きだって気づかれた!?
そ、そりゃあ、地獄の豪雨に耐えてまでピクニックに参加したし、
イヌ夫がエスカルを前足に乗せたときに、即座に引き剥がしたし……。
うう、ばれて当然かも……
フ、フン! それがどうしたきりすずめ! ばれたところで何も変わりゃしないわ!
あたしは世界中を敵に回しても、イヌ夫を愛し続けるんだからっ!
「ぴょん子ちゃん、あなた……」
「…………」
「アタシのことが好きだったのねン!」
 ぶっとびぃぃぃぃ〜〜ん!!
「だって、雨が嫌いなのに無理してピクニックに参加してくれたし、
イヌ夫さんからアタシを引き離して、自分の前足にのせてくれたし……。
それに、ベチョベチョのサンドイッチを食べてくれたし」
な、な、何言ってるのよこいつ! それは全部イヌ夫への愛ゆえよ〜っ!!
サンドイッチを食べたのだって、イヌ夫が食べたからよーーーっ!!
「……アタシ、イヌ夫さんのことが好きだったわン……でも……」
“だった”? “でも”っ?
「ぴょん子ちゃんのことも大好きになっちゃった!!」
ぎゃあああああああああああああ〜〜〜っっっっ!!!!
なんで!どうしてぇ!? なんであたしが、カタツムリに惚れられなきゃいけないの!? 
それに“も”ですって!? それって、それって……
「これからも仲良くしてねン♪」
「は……はわわわ……」
イヤ、いやよぉ! で、でも声が出ないから反論できないーーーっ!! 
そ、そうだ、イヌ夫!助けて、イヌ夫っ!!
「うんうん、仲良きことは美しきかな」
イ、イヌ夫〜〜っっ!!

……エスカルは雌雄同体だけに、バイセクシャルだったのよ。
ライバルを消すどころか、ライバルに惚れられるなんて……こんなのって、あり?
……いいえ! くじけちゃいけないわ、ぴょん子!
こいつがあたしに惚れたって事は、あたしをライバルだと認識する確率が減るって事!
フフフ、せいぜい油断してればいいわ……絶対イヌ夫はあたしだけのものにするんだから!!

(ウシャーッシャッシャッシャッシャ……)

あたしは心の中で、高く笑った。
「ぴょん子ちゃん、今夜一晩はここで安静にしなさいってお医者様も
おっしゃってたわン、あなたのお母さんには連絡しといたから安心して」
「じゃ、ボクは帰るね」
……イヌ夫、ばいばい。 また明日、会おうね……
「それじゃあアタシ……」
ケッ、テメーもさっさと帰りやがれ。
「今夜はここに泊まるわねン」
は?
「アタシのせいでぴょん子ちゃん、こんなになっちゃったんだもン。
責任もって一晩中側についててあげるわン、安心してねン」
ぐああああ!! 帰れ! 帰れカタツムリーー!! 
イヌ夫がついててくれるなら大歓迎だけど、貴様なんぞいらん!! 帰れぇぇ〜〜っ!!
あたしは必死に手足をばたつかせ、エスカルを追い返そうとした。けれど……
「うふっ、ぴょん子ちゃんたら、あたしと一緒にいられるのがよっぽど嬉しいのねン♪
うふっ、あまえんぼさん。でも……か・わ・い・い♪」
…………は、吐き気がぁ……


ああ、なんで、なんでいつもこうなの? 
神様の意地悪っ! あたしが何をしたというの!?
でも……あたしは、あたしはくじけないわ……どんな障害が立ちはだかろうとも、
イヌ夫は必ずこのあたしが!
「んふっ、ぴょん子ちゃん、早く元気になってね♪」
 ぬたぬた……
あたしの真っ白な毛の上に、粘りけのある透明な線を描きながら、カタツムリがはい回る。

ウフ……エヘえへウフふ……やっぱり……少しくじけちゃうかも……


おしまい☆

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